天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり

プロローグ

 その日、その産院で、ほぼ同時に2つの産声が上がった。


 生まれたのは、うっすらと茶色い髪が生えた赤子と、金髪の赤子だった。


 担当看護師たちは、その2人を産湯で綺麗にし、隣同士のベッドに寝かせた。

 次は産着(うぶぎ)を着せようと忙(せわ)しなくしていて――勢いよく互いにぶつかった。



「あっ」

「きゃ、ごめん」


 新生児たちのベッドにも、仕事道具が置いてあるサイドテーブルにも衝撃が行き、いくつも物が落ちる音がした。


「あれ、名前のタグが」

「落ちてるわ」


 落とした物の中には、新生児を見分けるための名前のタグがあった。


「わぁ、最悪。……これ、どっちがどっちの赤ちゃんのタグだっけ……」

「あ……えーっと……」


 どっちのタグが、どっちの赤子の物かわからなくなってしまった。


「やばいよ、1人はお貴族様の赤ちゃんだよ!」

「お、お貴族様なら、こっちの綺麗な金髪の子がこのタグだと思う!」

「だよね! 私もそう思う! 合ってますように~!」


 彼女達は、そんな適当さで、赤子達にタグを付け、ミスを誤魔化した。


 その後、赤子の様子を見に来た貴族――男爵夫妻の容姿を見た彼女たちは、すぐに気がついた。

 自分たちは取り違えミスをしたのだと。


 男爵夫妻の容姿に面影があるのは、茶髪のほうの赤子だった。



 男爵夫妻は、金髪の赤子を愛おしげに抱き上げ、


「私達の間に、こんな天使が生まれるなんて」


 と言っている。


 もはや、間違いです、などと言える段階ではない。



 もう片方の赤ん坊の母親は、産んだばかりだというのに行方をくらました。

 産院に払う金がなかったのか、もともと産み捨てるつもりだったのかはわからないが。


 ミスした2人がさりげなく、分娩室での担当看護師にさぐりを入れると、その女性は金髪だったらしい。


「……いい? これは私達だけの秘密だからね」

「わかってるよ。平民ならともかく、片方はお貴族様だし!! 言えないよ!」

「ああもう、なんでお貴族様がこんな産院で出産するのよ! いい迷惑!」

「ホントホント! こんなとこで出産するほうが悪いよねー!」


 最終的に、自分たちは悪くないし! と文句を垂れたその2人は、逃げるように病院を退職した。


 ――かくして。


 茶髪の赤ん坊は孤児院へ送られ、金髪の赤子は男爵夫妻に引き取られていった。

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