【29】再会

  ハミルトン一家が待ちに待った勇者一行が到着し、エントランスで屋敷の全員が集まり頭を下げて迎える。


 彼らは男性ばかりの6人パーティで、みんな体格も良く、見るからに屈強だった。

 年齢は少年から初老まで幅広い。

 そして、その旅姿は綺麗なものではない。


 ハミルトン一家は、その薄汚れた姿に一瞬眉を潜めたが、これから彼らは――少なくとも彼らのリーダーである勇者は高位貴族に、そして他のメンバーもそれなりの爵位や報奨を受け取る栄誉をうける団体なのだ……と思い我慢した。


 だが、その男たちの中で1人。


 端正な顔立ちに加えて、目を引く濃紺の髪に、同じく深い青の瞳の青年がいた。

 ――それが勇者ジークであった。


 名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。

 一方、勇者のほうは、厳しい顔をして、エントランスを見回していた。


「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」


 父親が口を開く前に、黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。


「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、ジーク様」


「だって……!」


「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」


「えっ」


 急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。




「あー……っとそうですね……」


「そ、そうですわね。三人……ですわね」


 男爵と夫人は歯切れが悪くなった。


 ミューラは最後方で頭を下げながら、それを聞いていた。


「(やはり私は、家族の数には入ってないのね。わかってたけど)」


 わかっていても聞きたくはない言葉ではあった。


 しかし、勇者は何故家族の数を確認しているのだろう。


「そうですか……。ミューラ、という娘さんがいらっしゃったかと思うのですが」


 勇者は次に、ミューラの名前を口にした。


「ミュ、ミューラですか!?」


 男爵が慌てた声をあげる。


 ミューラは思わず頭をあげた。


「(どうして、勇者が私のことを? ……いえ、待って、彼は……)」


 男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、男爵達と対面していた勇者ジークと目が合った。


「――」


 ミューラは口元を抑えた。


 ――すっかり声変わりしていたから、声だけでは、気が付かなかった。


「……ミューラ!!」


 勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。


「……っ」


 ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは、間違いなく知っている懐かしい匂いがした。


 脳内に浮かんだ数年前に別れた大事な幼馴染。

 そのかつて幼かった顔と抱きしめてきた男性の顔が合致する。


「……エドガー?」


「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」



 ずっと会いたかった幼馴染。

 いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。

 それが、今ここにいる。


 あまりの出来事に、ミューラは呆然(ぼうぜん)とした。


 思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。

 すっかり大人の男性になった――確かにエドガーだ。


「でも勇者ジークって……」


「いや、本名で話が広がったら暮らしにくそうだったから、偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」


「そっか……」


 ミューラは、伝えたいことがたくさん頭に浮かんでいるものの、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。


「……綺麗になった」


 エドガーが耳元でポツリと言った。


「えっ。会っていきなり、な、何を言って……」


 泣いていながらも、慣れない事を言われて、ミューラはカーッと赤くなった。

 それを見てまたエドガーがミューラの頭を撫でくり回す。


 そんな2人だけの世界が続きそうになったが。

 ――そこに割って入る声があった。

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