洗練された雨感覚

 作者様は感覚マジシャンとも言える五感刺激の達人でしょうか。雨をテーマにした小説でありふれた触覚や視覚、聴覚だけでなく、嗅覚、味覚に至るまで……五感をフルに刺激するような描写、表現方法も去ることながら、圧倒的な洗練性に打ち拉がれるような衝撃を受けます。
 晴れとの対比が雨の情緒を浮き立たせ、また陶然として歩きながら降り頻る中を浴して全身で雨を感じ取るシーンは、まるですべてを雨に捧げんばかりの精神世界として印象的でした。
 またタイトルにあるアマサギという鳥名が、雨との親和性を高めるだけでなく、その鮮やかな橙として燃えるような色彩が、また雨の中でも異彩を放つーーその炎と雨との相克が網膜に美しく映えるようです。
 そして極めつけは名もなき主人公。人称不明。前作の二人称を超える勢いの作風に、この物語のーー否、作者様の秘めたる可能性を、感じずにはいられない。

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