没入感などという言葉では生温い。

 おそろしい小説であった。主人公の情報どころか人称さえわからない。無人称。そんなもので感情移入できるはずもないと思っていた「私」は、いつのまにか光に怯え、命を嫌悪し、赦しの雨を乞うていた。
 私は雨の中で燃え上がる鳥に出会った。その鳥は巣を作っていた。家族と呼ばれるものである。嫌悪すべき命そのものであった。それでも親鳥の喉に鋭いくちばしを突っ込み強引にえさを奪うひなを見て、私は興奮した。温かな雨の中で命を叫ぶそれらは、私とはまるで違っていた。
 違う、はずだったのだ。だから、私はそれを、私と同じになってしまったそれを、私だけは赦すのだ。

 私はそうやって自分を赦そうとしたけれど、きっとあなたは違うはずだ。読んだ人の数だけ解釈があるのではなく、読んだ人の数だけ物語があるのだ。本当におそろしい小説だ。
 これほどの作品に出会えたことに深い感謝を。そして心からのお祝いを。貴女の作品は本当に素晴らしい。

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