言葉にできない理由
- ★★★ Excellent!!!
この作者様の作品はいつも本当に楽しく読ませていただいているのですが、なかなか言葉が出てこなくて、無言で立ち去ってしまうこともしばしばです。それが本当に申し訳なく、そしてもどかしく思っております。なので、もう開き直って、今回は本作『だからネイル、買ってたのか』と、前日譚となる『製造課のアレサンドラ』『キャッチボールをしようじゃないか』を読んで、なんでこうも言葉がすっと出てこないのかを言葉にしようと思います。(なんじゃそりゃ)
もちろん創作物として読んだときに「面白かった!」や「最高!」といった言葉は出てくるのですが、ここから登場人物にフォーカスしようとすると、途端に言葉に詰まってしまうのです。たぶんあまりにも描かれる人物像がリアルだからなのだと思います。織絵や健という本物の人間を相手に、彼らの人生に対して感想めいたことを言うのが怖くなってしまうのです。変な話なのですが、こんなこと言ったらオリに嫌われそう、みたいな感覚があるのです。観客席でスポットライトに当てられた彼らを見ていたはずが、いつの間にか二人が自分の前の席に座ってポテトチップスを食べてるんですよね。自分が舞台に上がる没入感とは違って、彼らがこちら側に降りてくる感覚。だから色もにおいも温度も言葉も光も陰も全部がすぐそばにある。愛しくて苦しくて思わず息を止めたくなる。そうやってしばらく息を殺して、二人が十分離れてから、ふーっと息を吐いて立ち上がると、背筋がぐんと伸びる。よし今日も頑張ろうって勇気をもらえる。私にとってはそういう作品なんです。
これからも、うまく感想が言えないかもしれませんが、いつも本当に楽しませていただいていることが少しでも伝われば幸いです。ありがとうございます。