心の瞳で 君を見つめれば
愛すること それがどんなことだか
わかりかけてきた
坂本九『心の瞳』の歌詞の冒頭です。
この合唱曲をご存知の方はきっと、この小説の伝えたい意味を心から受け止め、強く共感できることでしょう。
作中の食卓の場面。
母親の米粒が箸から、テーブルから、落ちていくシーンがあります。
認知症の周辺症状から怒りやすくなる症状、易怒性。
拾うことなく、眉根を引き絞り、テーブルを叩く典型的な動作。
母の頭の中の消しゴムが、記憶の黒い文字とともに、儚い消しカスとなって落ちていくようです。
心の瞳を閉じて心を殺せば楽になれる。
分かっている。そんなことは。
でも、なんでかな。
どうしようもない切なさとやるせない感情。
諦めきれない思い。
凄まじいリアリティが喉元に込み上げ、
記憶の熱とともに襲いかかってくるのです。
そして紡がれる思い出の歌。
頭の中の消しゴムは、大切な記憶の色文字までは、どうやら消せないようです。
それは歌のもつ心の色でしょうか。
二人を繋ぎ止める記憶と言葉がメロディーとなって読み手の心を大きく揺さぶるのです。
私はこの小説を読んで、泣きました。
夏目漱石が書いた「こころ」。この「こころ」という言葉。
僕は「こころ」とは文学に置いて、あらゆる意味で最優先されるべき「テーマ」だと思っています。
僕は小説という世界において、「こころ」を大切にしたいのです。
ふとしたきっかけで、こちらの作者様の作品に触れる機会を得ました。たくさんの物語が現在カクコン10という中で読まれています。だから、僕はレビューを書きます。
まずは、こちらの物語を拝読されてみては如何でしょうか。
僕はとても深く「こころ」というテーマを考えさせられました。それは決して、見る事も、掴む事も、留める事も、出来ません。ですが、「こころ」は確実に人間の本質、その深き部分において、優しく、温かく、泣き出しそうなまでに、愛おしいものだと、改めて今作から教えて頂きました。
小説とは「人」そのものを映し出す鏡。様々な「人」が多くの作品の中で生きています。その生命の素晴らしさ、尊さを、今作は見事に映し出し、激しく僕の「こころ」を震わせ、強く迫って来ました。
お勧め致します。
カクコン10において、とても大切にすべき物語のひとつだと確信をもって皆様にご紹介出来る作品です。この素晴らしい物語を紡ぎ出された筆者様に深い感謝を。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)