第15話 9月から始まる物語

「あぁ…眠い…」

 2時間ちょっとしか眠れず、睡眠不足からくる倦怠感全開のまま僕はゴミまみれの床で小さい伸びをする。

「というより、いつまで僕は床で寝なければならないのだろう…」

 弟子となり数日が経ったわけだが、その肝心の師匠は魔法を教えることも無く、毎日寝落ちするまで飲んだくれて、昼過ぎとか夕方まで寝ている。

 食事はカップ麺かおつまみ、寝床はゴミの散乱した床。服もないので基本全裸。

 そんな酷すぎる生活環境を嘆く僕の前に突然魔法陣が現れる。

「うそ!!まさかまた襲撃!?」

 昨晩襲撃されたばかりなのに。

 守ってくれるはずの師匠は爆睡してるし、僕また死んじゃうの?

 ひとりどうすることもできずワタワタしていたら魔法陣が消え、段ボール箱が現れた。

「お、驚かせやがって…」

 段ボールに近づく僕。宛名は僕になっていた。


「制服…それに鞄…もっさりブリーフ…」

 箱の中には、死ぬ前に通っていた学校のものとは違う制服が一式入っていた。

 そして肝心のもっさりブリーフ。

「トランクス派の僕は、8年前にブリーフを卒業したんだけどなぁ…」

 純白のそいつを手に取り不服に呟く。ご丁寧に名前まで書いてあるし。

「あれ?以外と…」

 不満だが仕方なくそいつに脚を通し、引き上げ、妙な懐かしさと絶妙なフィット感になんとも言えない気持ちになった。

 もうひとりの僕が幸せならそれでいいや…

 そういうことにして、僕は制服に袖を通した。


「それじゃあ行って来ます。」

 制服に着替え、玄関を開ける。昨晩、寝落ちする前のヴェネーラさんが合鍵をくれていたので、施錠もしっかり行う。

「よし、新しい僕の第一歩だ!!」

 最上階故に誰もいないエレベーター。意気揚々と乗り込みグッと拳を握り意気込んだ。


「青郷尊ですね?」

 そんな誰もいないはずのエレベーター内で、僕は黒ローブの集団に囲まれていた。

「まさか『自治派』の魔女さんでしょうか…?」

 ダラダラと嫌な汗をビッシリとかきながら僕はそう恐る恐る尋ねる。

「その様子ですと、早速襲われた様ですね。私、『協会派』の魔女、ドルシネア・カッリャリと申します。」

 ローブを取り、素顔を表しながらそう言った魔女。某丸眼鏡で稲妻の傷がある魔法使いの主人公が出てくる作品の変身術の先生みたいな人だ。

 そんなナニゴナガルさんが他のローブ集団に目で合図をすると一斉に姿を消す。

「ところで貴方1人ですか?光乃緋音はまだヴェネーラ様のお部屋に?」

 知らない名前が出てきて頭にハテナを浮かべる僕。

「貴方と共にヴェネーラ様の下で修行している少女がいるでしょう?貴方が来た少し後…あのは8月29日に来た筈です。」

 いよいよ心当たりがない。それともなんだ、あの汚部屋の中にヴェネーラさんと僕以外にもうひとり女の子が居たってこと?だったらヤバいじゃん。僕ずっと全裸だったんだけど。

「本当に来てないんですか…」

 呆れた様に呟いたドルシネアさん。

「ええ、多分。」

 あの師匠のことなので確信はないけど、心当たりはないと伝える。

「また後日お伺い致します…」

 溜息混じりにそう言ってドルシネアさんは姿を消した。

「えぇ~…」

 なんかよく分からんけど、なんかあったらしい。


 なにも分からない僕はモヤモヤしながら学校に向かった。





 

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