第6話 魔女の世界と光乃の魔女
「魔女の世界…」
見たことある様な動物に近くもどこか違う、異形・奇怪な生物が漂う世界で僕は腰を抜かしたまま震える声で呟く。
「見えるってことは、お前もこっちの住人だ。」
一升瓶を煽りながら師匠はそういう。エロティックに口元から溢れた酒がその深い谷間に流れていくのを眺めながら、僕は問う。
「これから僕はどうなるんですか?」
「魔女としての生き方と魔法を覚える。それだけだ。」
酒精が回ったのか、ほんのりと朱をさし、更に艶っぽくなったおっぱい様は端的に答える。
魔法を覚える。それはわかる。しかし、魔女の生き方って、魔法なんか存在しないと思われている現代社会でどう生きろというのだろう。
「魔女の生き方って…どうすればいいんですか?」
そう率直に問う。
「どうもこうも、人間の振りして生きる。それに尽きるな。」
異形の生物を従え、撫でながら師匠はそういう。
「正直に言や、魔女の時代はとっくに終わった。私は負けてねぇけど魔女全体として見りゃ、人間に完敗した。」
不機嫌そうに口を尖らせ、師匠はそういい、
「だから人に擬態する。人として生きながら、魔女として生きる。まあ、その意味が分かりゃぁ、魔女として最低限のラインは達成だな。」
煙草に火をつけ、吐いた煙を僕に向け操る。
「ヤニ臭っ!!」
煙草の煙に縛り上げられた僕はそう不満を伝えるが、
「ヤニは大人の香りだ。」
と取り合ってくれない。
「まあ、そんな魔女の生き方に真っ向から喧嘩売る奴もいるんだがな…それは置いといて、お前は魔女として生きなきゃなんねぇ。近々修業始めっから、覚悟しとけよ。」
そう言って指を鳴らす師匠。
戻ってきた汚部屋で、僕は床を見つめていた。
あのエロい下着と、18禁なアダルトグッズはなんだろう…
それが気になって、何も話が入ってこなかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「お母さんは意地悪か…」
ブスッとしながら縛り付けられた箒の上でそう呟く。
「お母さんにしては甘か縛りやね。」
ニュルンと猫じゃらしのように縄を抜ける私。
幼い頃からいたずらをしては石臼に縛り付けられた私にとって、この程度の縄抜けはお茶ノ子祭々なのだ。
「荷物は…」
1週間分の衣類と諭吉さんがお一人、あとは謎のクーラーボックス。
「東京は遠か…」
関門海峡を見下ろしながらそう呟く。
「まあ、山陰も山陽も山はいっぱいやけんね…」
現地調達を強要するお母さんの教育方針。
自分はお取り寄せで全国の美味しかもんば取り寄せて食べよる。
お父さんは毎日玄米と味噌と少しの野菜ば食べよるとけ…
私?私はいつだって愛情たっぷりに育てた大切な友達とともにある。みんな私の中で生きている。人はそれを家畜というが、私には大切な友達で大切な糧だ。
「修行とかせからしかぁ…」
光乃の魔女として産まれた私は、祖母の代から続く伝統に溜息を漏らす。
「おばあちゃんよりもババアの師匠とか、絶対老害やん…」
昨年、黄泉の国へと旅立ったおばあちゃん。その師匠で魔女の世界に君臨する最強の魔女が私の師匠になる人。
四大文明よりも前から生きていると言われるスーパーババア。
「魔女には絶対になりたかけんが修行はすっけど、時代錯誤のパワハラはごめんやけんね…」
はぁ、と溜息を尽き、箒を操縦し山林に降り立つ。
「とりあえず夕飯やね。」
山と森は私のテリトリー。
ありがたくお肉をいただき、再び東に向け箒を奔らせた。
一族の宿願、光乃の呪いを祓う為に。
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