第17話 師匠と2人の弟子
「朝からうるせぇんだよ!!」
血まみれの瀕死状態で床に倒れる僕と、これまた血まみれでそんな僕に杖を向ける美少女の前に不機嫌さマックスのお師匠様ことヴェネーラさんが怒鳴りながら現れる。
因みに現時刻は午後2時である。
「ババア、なんで男がおっと!?」
そんなヴェネーラさんに対し恐れ知らずなのか美少女は凄いことを言う。
「誰がババアだクソガキ!!」
そして案の定、殺人レベルの強烈なアッパーカットが繰り出され、美少女の身体は宙を舞った。
「とりあえずお前ら泣いても許さねぇからな。」
そんな恐ろしい言葉を呟いたヴェネーラさんは床に転がる僕と美少女、そして滅茶苦茶になった部屋や窓に魔法を放った。
一瞬で割れて飛び散ったガラスが元通りになり、僕たちの傷やダメージも無くなっている。なお、部屋は汚いままである。
「痛むところはあるか?」
そんな魔法を見せたヴェネーラさんは、優しく僕に問い掛ける。
「いえ、すっかり治ってます…今のも魔法なんですよね?」
健康そのものに戻った身体、元気よく立ち上がってそう質問を返した。しかし、僕の質問に対する答えは返って来なかった。
「元気で何よりだ…これで遠慮なくお仕置きできる。」
返って来たのは悪魔の様な笑顔と恐怖、それから先のことは覚えていない。
「緋音、お前何日遅れてんだよ…」
「私悪かもん…お母さんが…」
説教モードのヴェネーラさんとグスッ、と鼻を啜り涙を拭いながら正座している美少女。
「あのバカがちゃんとしてるわけねぇだろうが。娘のお前が一番分かってんだろ。だからお前が悪い。」
「やけんっちお尻ばそげん叩かんちゃよかろうもうんが!!」
美少女は泣くまでお尻をシバかれたらしい。
「その程度で勘弁してやったことに感謝しろよバカ弟子。」
「…っ痛たた!!もげるけんやめんね!!」
耳をもぎ取る勢いで引っ張るヴェネーラさんと抗議する美少女。
「ったく、次からは手加減しねぇからな。」
手を離し、虚空からビールを取り出すヴェネーラさん。プシュッ!という景気の良い音が部屋に響いた。
因みに現時刻午後2時半である。
ーーーーーーーーーーーーーー
「それにしても汚かね…」
当初、私の誕生日(8月29日)に到着する筈だった弟子入り先。
祖母も母も同じ修行先、我が光乃家の魔女は3代に渡り同じ師に弟子入りすることが決まっていた。
そんな3代に渡り師をしているなんてとんでもないババアじゃんと昔私は思っていたけど、とんでもないなんてレベルじゃない程ヤバいババアだった。
幾千年の時を生きる魔女。『不死の魔女』に異名を持つ最強の魔女、ヴェネーラ。
そんな魔女界の超大物が私の師匠なのだが、とにかくだらしないし我儘だ。
とりあえずこの汚部屋は年頃の可憐なる乙女である私が住むに相応しくない。とにかく片付けを優先したいのだが、それ以上に優先すべきことがある。
「なんで男がおっとね!!私可愛かけん危なかやんね!!」
東京生活の保護者になる師に弟子である私の安全を確認したかった。
特別になりたいと願った僕は、生き返ったら魔女になっていた。~男のままで まるまるくまぐま @marumaru_kumaguma
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