第12話 もう一方の8月31日

「おい、明日から登校日だってのに大丈夫なのか?」

 ニヤニヤと僕を見て笑う師匠ことヴェネーラさんは、今日もセクシーな下着で包んだ素敵なギガントサイズのおっぱいを僕に見せつけてくれる。

「転校生って特別な存在ですからね。そこらへんの準備は万全です。」

 そう、転校生というポジションは主人公かヒロインの特権。ナイスガイな笑顔で親指を立ててそう答える。

「うん、心配しかねぇな。」

 呆れた声でヴェネーラさんはそう言う。


「おい、正座。」

「ふたご座ですけど。」

 6月15日が誕生日な僕がそう答えた瞬間、身体が浮き、ヴェネーラさんの近くに引き寄せられ、強制的に正座させられた。

「まず1枚追加な。」

 正座した太腿に綺麗に成形された石の板を載っけられた。

「マジすんませんでした!!自分調子くれてました!!」

 洒落にならない痛み(時代劇と時代物のAVでしか見たことのない拷問)に、僕は躊躇無く土下座した。

「ったく…このヴェネーラ様がわざわざ話をしてやろうってのによぉ。」

 はぁ、と溜息を吐きながらも石の板を消してくれたということは許してもらえたらしい。

「真面目に聴けよ。」

「はい。」

 土下座したままそう答える。

「んじゃ、真面目な話をする。お仕置きの続きはその後だ。」

 許してなかったらしい。

 おかしいなぁ?DOGEZAをしたんだけどなぁ?

「切腹でも許さねぇよ。」

 ニッコリと女神の様な微笑みでそう言うヴェネーラさん。お仕置きが終わっていないという現実がなければ、世界を魅了するほどに美しかったが、僕は恐怖のあまりチビッた。


「お前は魔女になったわけだ。」

 真面目な話を始めると宣言したヴェネーラさんは、何度も聞いた言葉を焼酎片手にそう言う。

 本当に真面目な話なのだろうか?今日はゴールデンな下着に包まれた素敵おっぱいを見つめながら僕はとりあえず頷く。

「うん、やっぱ今からお仕置き再開するか?見てんの分かってっからな。」

「すんません!!マジで真面目に聞きます!!」

 恐ろしい言葉に慌ててそう答える。

 そういや、この人心を読めるんだった…

「ったく…1枚追加な。」

 お仕置きのレベルが上がったことに青くなる僕を睨み、ヴェネーラ様は言葉を続ける。

「魔女は代々受け継がれた血、魔女の娘は魔女、そうやって血を繋いできたわけで、生物として魔女。女しかなれねぇ。魔女は人間と同じ見た目をしているけど、魔女って生き物なんだ。」

 そこまで言うと深い胸の谷間からライターを取り出し、煙草に火を着けた。

「そのライターは貰えますか?」

「やってもいいが、お仕置きが火炙りになる。」

「やっぱ大丈夫です。」

 すぐにそう返す。

「1枚追加な。」

 3枚か…耐えてくれよ、僕の太腿と脹脛…


「そんな魔女という生物に突然変異した人間。しかも男。それがお前なわけだ。」

「つまり、僕はミラクルガイというわけですか…」

 生き返って唯一無二の存在となったらしい僕にヴェネーラさんは拳骨を落とした。

「少林寺木人拳でもなけりゃ、お前はジャッキーでもねぇ!!ただのエロガキだ!!」

 ちょっと古すぎて分からなかったけど、ヴェネーラさんって何歳なんだろう?

 見た目だけなら20代中盤なんだけど…

 知りたいようで知りたくない…知ったらなんか新しい扉を開きそうなので聞かなかった。

 女性に年齢聞くのはNGだしね!!


「私からすりゃ、お前なんか別に特別でもなんでもねぇが、そう勘違いする馬鹿が魔女界にもいるわけだ。」

 灰を落とし、煙を吐きながらヴェネーラさんは頭を擦る僕に言う。

「ハーレムの始まりですね。」

 魔女界で特別な、唯一の男である魔女な僕。そんな僕に群がる個性的な魔女たち…

 そんな異世界転生的な展開を妄想していたが、

「ある意味ハーレムだな。これからお前を殺そうと魔女が襲い掛かってくる。殺意100%でな。」

 グリグリと灰皿で煙草の火を消しながらヴェネーラさんは僕の妄想を打ち砕き、

「まあ、安心しろよ。襲われても私の弟子って言や、殺意倍増されっから。」

 ハハハと笑う。


 あなた何者なんですか?

 この先の心配より、自分の師である魔女の存在が不安だった。

 




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