第13話 そして日付が変わる。

「言った直後だ、来たぜ?お前を殺してぇ奴らが。」

 8月31日23時50分。

 ヴェネーラさんが僕にそう笑うと同時に玄関の方から爆発音が響いた。

「「「汚らわしき異物。」」」

 漆黒のフードとローブで身を隠した人が3人、突然部屋に現れ、僕の方ヘ隠された頭を向ける。

 言葉も出ず、ただ明白に向けられた殺意に震える僕。

「誰の縄張りに入ったか分かってんだよな?」

 そんな侵入者にヴェネーラさんは笑い…

 僕や侵入者たちが存在する空間の全てが恐怖に支配された。

 

 いや、恐怖ではない。ヴェネーラさんは自分を魔女と言ったが、多分、魔法とか魔力とか、そういう未知の力の強さに恐れをなしているのではなく、そんな未知への恐怖、殺意が掻き消される程の圧倒的な、人とか科学だとかを超越した…

 神様がいるのなら、きっとこんな感じなんだろう。

 そういう錯覚に陥る程の恐怖に僕は過呼吸になる。


「うゎぁぁああ!!」

 半狂乱になり、ヴェネーラさんに向け攻撃を放つ侵入者の1人。他の2人は震え、蹲っている。

「私のちょっと放った魔力に抗えるか…良い弟子を持ったな、ユディト。」

 そう評価しながらも、なにもせずに攻撃を消し去り、力の差を見せつけたヴェネーラさんはニヤッと笑う。


「さて、進んでも死、逃げても死だ。どうする?」

 ヴェネーラさんの意地悪な囁きに、侵入者の3人は這々の体で逃げ出そうとした。

「残念だな、私を殺す位の気概は見せろよ…現代の魔女。」

 そうそんな声と共に、3人の侵入者が消え去った。その瞬間、ヴェネーラさんは笑っていた。

 僕は、綺麗とか美しいとかを超え、神々しさを感じる師匠であるヴェネーラさんの満面の笑みに見惚れ、これから僕に向かう殺意や恐怖の始まりであるのに、その美貌と肢体…いや、この師が僕に見せる姿を全てこの眼に焼き付けようと瞬きもせずに見つめていた。


「魔女の世界も一枚岩じゃねぇ。お前を異物…害と見做し殺したい連中と、お前が嫌いな連中がいるわけだ。」

 見惚れていた僕にそう言ったヴェネーラさんは、煙草に火を着ける。それと同時に、壊された玄関が一瞬で元通りになる。

 その光景と、その前に起こった異常事態が、魔法が本当に存在するという興奮や恐怖、自分が魔女の世界に入ったということを否応なしに自覚させられた。


「すみません…ちょっと待って下さい…ヴェネーラさんの説明だと、どっちからもアウト判定なんですが?」

「そりゃそうだろ。人でもなけりゃ、性別的には女しか存在しない魔女の世界に、異物たる人で男のお前が突然入ってきたんだから。選択肢は殺すか排除かの2択だろ。」

 想像以上に殺伐とした魔女の世界観をヴェネーラさんは当然のように言う。魔女怖い…

 それと同時に思う。じゃあ何故ヴェネーラさんは僕の師匠となり、さっき守ってくれたのか…

「好きでお前の面倒を見てるわけじゃねぇ。こいつの制約で仕方なく厭々やってるだけだ。」

 そう不機嫌そうに首のチョーカーを右手の親指で指しながら答えた。 

「それがなけりゃ、お前はとっくに死んでるよ。」 

 煙を吐き、虚空を見つめそう呟いたヴェネーラさん。

 その眼は、僕への悪意や殺意も無く、ただただ哀しそうに見えた。


 8月は終わりを告げ、9月1日となった。





 

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