第12話 失敗の予感

 格納庫に並んだ7機の強化服パワードスーツを見回した後、ミレイユは部隊を率いるボルト隊長に向き直った。


「あと1機、型式の違うのがあるはずだよね? アレも見たいな」


 わたしの機体のことだろう。都市国家ポリスザンキで設計・製造されたのだからヴォルガ製の強化服パワードスーツと型式が違うのは当然。同盟国だから持ち込んだけれど、ヴォルガの都合だけで宇宙圏に見学させられない。

 ボルト隊長は、その当たりの事情も把握している。無表情にミレイユの質問を無視した。


「あれが最新型かな~。それを見せてくれないんじゃ、誠意ある対応とは言えないよね。やっぱり、後ろ暗い計画持ってるから宇宙圏に見せられないのかな~」


 見学に際して、カーン大佐が「地球圏には宇宙圏に対し敵意がないことを、理解して欲しい」と言ったのを逆手に取って来やがった。


「では、これで見学会は終了だ。我々の誠意が理解して貰えなかった点は、非常に残念に思う」


 ボルト隊長は、見学終了を宣言し、警備兵にミレイユを格納庫の外へ連れ出すように指示を送った。


「横暴! 絶対、この非人道的な扱いを訴えてやるからね、覚悟しときな!」


 警備兵に両脇から抑えられ、引きずられてゆくミレイユの背中を見送る。

 大声で喚く様子を見ていると、カーン大佐の期待する「架け橋」役は無理そうだ。

 格納庫の扉が閉じて、ミレイユの姿が見えなくなるとボルト隊長は大きくため息をついた。



 わたしとボルト隊長が、ミレイユのワガママぶりに閉口していると、カーン大佐と朝耶ともかが格納庫へやって来た。


都市国家ポリスザンキの本部から返事が来た」


 朝耶が言う。カーン大佐の「確保した2名を、宇宙圏の冒険者に預ける」案の回答だな。


「ヴォルガの決定には、ザンキは干渉しない。ただし、その作戦行動にはエリスは参加しないようにとのことだ」


 あれ?

 ちょっと意外な回答だった。強く反対して来ると思っていた。


「ザンキとしては、この提案は失敗すると予測しています」


 断定的な言い方をしたのは朝耶。カーン大佐の質問を先回りするような物言いになっているのが気になる。


「冒険者は民間人のようです。民間人同士であれば、地表での遭難者として保護してくれると思います。どうして、失敗すると思われるのですか?」


 カーン大佐は、朝耶に理由を求める。それに答える前に、朝耶がわたしに文書の表示されたタブレットを渡してきた。


「……これ、いいの?」


「同盟国とだと本部は判断したようだ」


 わたしと朝耶のやり取りに、カーン大佐は気色ばんだ。ボルト隊長も、不吉なものを感じたようだ。

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冒険者 あるいは 和を乱す者 -化獣戦記- 星羽昴 @subaru_binarystar

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