第11話 格納庫の見学

 2人の身柄を確保してから1週間が経過した。シュウは未だに遠慮がちだが、ミレイユは相当に図々しくなった。「生活必需品に不測があるか?」と確認したら、食後のデザートと化粧品を要求された。当然、無視。


「ねえねえ、アンタらの強化服パワードスーツを見学させてよ」


 地表圏の強化服パワードスーツに興味を持ったミレイユが、そんな要望を出してきた。わたしはその場で却下したのだが、後でそれを耳にしたカーン大佐は別の判断をする。


「我々に敵意がないことを、理解して貰うチャンスではないでしょうか?」


 わたし達の建前としては「宇宙圏からの不適当な干渉に対する応戦」で、こちらから宇宙圏を攻撃する意思はない。


「地表圏は宇宙圏に対して危害を与える意思がない、そして宇宙圏との交渉に応じる用意があることを、彼らを通して伝えるのです」


強化服パワードスーツを見学させることで……ですか?」


強化服パワードスーツは防衛戦力の要です。当然、敵対勢力には一切公表しません。逆に、それを公開することは、言わば『胸襟を開く』姿勢を示せるのではないでしょうか」


 カーン大佐としては、確保した2名を無事に宇宙圏に返還して、地表圏と宇宙圏の橋渡し役となってくれるのを期待しているらしい。都市国家ポリスヴォルガの軍上層部の説得は、カーン大佐がするつもちだと言う。

 わたし達は、あくまで同盟国からの応援に派遣されただけ。都市国家ポリスヴォルガの軍部が、そうすると言うのなら止める権限はない。

 ただし、わたしの機強化服パワードスーツは、見せるわけにはいかない。



 見学が許可され、強化服パワードスーツの格納庫を訪れたミレイユは、玩具を買って貰う子供のようにはしゃいでいた。



 強化服パワードスーツが電力で稼動するのは、地表圏の機体も宇宙圏の機体も同じ。その電力を、宇宙圏の強化服パワードスーツはソーラーシステムで発電するのに対して、地表圏の機体は「衝突炉」と言う発電装置を搭載する。

 昼夜があって、太陽光も宇宙の7割程度しか届かない地表では当然のシステムだが、ミレイユには動力機関を搭載する強化服パワードスーツが珍しくて仕方ないらしい。更に……。


「これ、どうやって調整するのよ! 股が裂けちゃう!!」


 整備員の目を盗んで、試しに装着しようとして悲鳴を上げる。慌てて整備員が駆け寄り、強化服パワードスーツの中からミレイユの身体を引きずり出すことになる。

 宇宙圏の強化服パワードスーツは、アジャスタブル機能が備わっていて、装着者の体格に合わせて肘や膝の関節周辺の寸法を自動的に調整する。地球圏の機体にはそんな機能はない。装着者を固定して、その体格に合わせて整備している。

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