静けさの中に落日の音が響く、珠玉の短編

描かれているのは少し不思議な、けれど他愛ないとも言えるような小さな出来事。
これは友情の物語と呼ぶこともできる。しかし、そこで描かれているのは一年にも満たない短い期間での出来事であり、二人の関係も親友と呼べるような深いものではない。お互いを理解し合った唯一無二の存在ではなく、主人公は知恵理という友人に対し、憐憫に近い感情と極僅かな共感で話を合わせる。その関係性が、リアリティと美しさのギリギリの均衡を保って描かれている。
エキセントリックでありながら実在感もある知恵理のキャラクター造形も素晴らしいし、西日から落日までの様々な光を描き出す筆致も素晴らしい。
ライトノベルからもホラーからも現代文学からも、あるいはいわゆる百合小説からも、あらゆるフォーマットから外れた展開はどこに行くつくのか先を読ませずハラハラさせ、最終的にたどり着いた密かな優越感に、こちらも静かに心が満たされた。ジャンルに縛られないカクヨムならではの小説だと思う。