テクノロジーが進歩し文化が変わっても、変わることのない人間の本質

 SFとは思考実験である。
 テクノロジーの進歩が人間の何を変え、何を変えないのか。科学を下敷きにした人文学的な考察こそがSF小説の醍醐味だと私は思う。
 蒼井シフト氏の「星の人シリーズ」第3弾である本作は、そうしたSF的な楽しみを存分に感じさせてくれるものだった。
 本作には銀河系内の様々な星系、星間文明の人々が登場するが、彼らは全て同じ遺伝子的なルーツを持つ「人間」である。しかしながら、地球人の末裔ではない。「播種船」により宇宙に散らばり、それぞれの星系で独自の文化を育んだ人々なのだ。
 つまり、遺伝子的には人類でありながら、文化的には地球とは全く異なる、そうした人々の姿を通して、本作は人間が文化やテクノロジーによって変わる部分と変わらない部分を描き出している。
 こう書くと堅苦しく見えてしまいそうだが、その語り口はあくまで、アクションあり笑いありの、エンターテイメントの王道。人間同士の軋轢や、人間が生み出したAIとの軋轢から生まれる争いや、その中でも人間らしさを感じさせるユーモア。そうしたものが、時に激しく、時にコミカルに描かれる。

 随所に散りばめられた現代的な知見も見逃せない。
 宇宙を舞台とした冒険活劇というのは、SFとしては比較的古くからあるジャンルだが、科学考証はあくまで現代的であり、その意味ではまさに現代バージョンとして巧みにアップデートされた宇宙冒険活劇とも言える。

 そして、女性しかいない国で最強の戦士として生きるマリウスのカッコよさも必見!
 しかしこの不穏なエンディングは大丈夫なのか……!?
 ということで次回作への期待も高まるばかり。

 とにかく紛れもなくSFの傑作である『モータル・アップデート』、かつて宇宙に憧れた全ての方にオススメしたい。

 とか言って、私もまだ前作は読めていないのでこれから読みます!!

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