物語は東インド会社が健在だった頃のインドから始まる。物語の題材としてはあまり見かけない舞台設定だが、これが抜群に面白い。生き生きとした情景描写と人間描写は、それが我々の住む現代と地続きであることを感じさせ、ぐいぐい引き込まれてしまう。
カメラはイギリス軍人から現地の女性労働者、富豪のお嬢様へと切り替わり、当時の社会を多角的に捉える。しかしその大きなスケールの中で描かれるのは、人魚を見たいというお嬢様の小さな願望だ。そこに歴史上の大事件を扱った歴史小説にはない凄みがある。リアルな人間の営みを感じさせる。
物語後半では一気に40年が経過し、アメリカ、イギリス、そして日本へ、時代の激動とお嬢様の流転が描かれる。そして、立場が入れ替わったかつてのお嬢様と使用人の、40年越しの小さな秘密の告白と友情。
時代と場所を超えても人間の本質は変わらない。そんなことを思わせてくれるラストシーンが、静かに胸を打つ。