日本の田舎ならではの閉鎖的な人間関係と、肉体を磨き上げ爽やかな汗を流すスポーツドラマ。およそあり得ない組み合わせが奇跡的な調和を見せ、薄暗い山道に一陣の爽やかな風が吹き込むような不思議な感動を呼ぶ小説だ。
因習村と言い切るのは若干誇張もあるかもしれないが、舞台となる集落「矢田」は一時間に二本しか電車の来ないような田舎であり、「カケクラ」という謎の風習がある。
これは神社に続く山道で伝統的に行われている中学生たちの競争なのだが、都会から来た主人公が「カケクラ」について知っていく流れはまさに因習ホラーのワクワク感。そして「カケクラ」の正体が明らかになると、閉塞した人間関係のトラブルを挟んでスポーツドラマに移行していくわけだが、その際の因縁というか、対決の「アングル」の作り方がまた素晴らしい。
最初は冴えない陰キャ男子に見えた「夏輝」の飄々とした魅力にぐいぐい引き込まれる。
そして対決シーンの純粋なスポーツものとしての面白さ。ただ山道を走るだけなのに、駆け引きがあり、絶体絶命のピンチがあり、見事な逆襲がある。さらにそのスポーツを通して起きるであろう人間関係の変化が想像させつつ、そこを読者に委ねたまま決着で終わる潔さ。ラストの一文はマジで痺れる!
全く無駄のない、すべてがハイレベルにまとまった25000文字。
一話で書かれているため中断しにくいが、25分まとまった時間を取って一気読みすべき作品。
良質なエンターテイメントを求める方はぜひご一読を!