太陽の音を忘れない
清瀬 六朗
第1話 知恵理
彼女の名は
いつも気弱に笑っているような顔立ちだった。
ほんとうに気弱なのかどうかはよくわからない。
どちらかというとおしゃべりなほうで、話しかけられると、必要な量の二・五倍から三倍ぐらいしゃべる。しゃべるというか、まくし立てる。
でも、しゃべらないときには徹底してしゃべらない。しゃべらない時間が長くなると、その気弱に笑っているような顔立ちが、不機嫌で、口をとがらせているような表情に変わっていく。
また、口を開いたら開いたで、言うことが突き抜けている。
べつに極端な主張をするわけではない。
でも、
「今日の天気は菱形だね」
と言ったり、
「上手にできたオムレツはぷっこんぷっこんした味がする」
と言ったりする。
要するに、何を言っているのかよくわからない表現をするのだ。
「天気が菱形、って、雲が菱形みたいに見える、ってこと?」
と助け船を出しても
「いや、そんなんじゃなくて、天気が、菱形」
とか言って、譲らない。
菱形の天気記号で表現される何かかな、と思って調べてみても、そんな記号は見当たらなかった。
知恵理は、背は高いほうで、茶色っぽい髪は長くて髪質もすなおだ。それが、灰色で、襟にだけ赤と青の細いラインが入るセーラー服という、わたしたちの高校の制服に似合っていた。
そんなこともあり、おしゃべりで陽気そうだということもあって、最初のうちは女の子たちのグループに入っていた。
しかしだんだんと「敬遠」されるようになって、夏休み前には孤立していた。
やっぱりその「突き抜けた」表現や、しゃべるときとしゃべらないときの落差の大きさが原因だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます