太陽の音を忘れない

清瀬 六朗

第1話 知恵理

 彼女の名は川之上かわのかみ知恵理ちえりといった。


 いつも気弱に笑っているような顔立ちだった。

 ほんとうに気弱なのかどうかはよくわからない。

 どちらかというとおしゃべりなほうで、話しかけられると、必要な量の二・五倍から三倍ぐらいしゃべる。しゃべるというか、まくし立てる。

 でも、しゃべらないときには徹底してしゃべらない。しゃべらない時間が長くなると、その気弱に笑っているような顔立ちが、不機嫌で、口をとがらせているような表情に変わっていく。


 また、口を開いたら開いたで、言うことが突き抜けている。

 べつに極端な主張をするわけではない。

 でも、

「今日の天気は菱形だね」

と言ったり、

「上手にできたオムレツはした味がする」

と言ったりする。

 要するに、何を言っているのかよくわからない表現をするのだ。

 「天気が菱形、って、雲が菱形みたいに見える、ってこと?」

と助け船を出しても

「いや、そんなんじゃなくて、天気が、菱形」

とか言って、譲らない。

 菱形の天気記号で表現される何かかな、と思って調べてみても、そんな記号は見当たらなかった。


 知恵理は、背は高いほうで、茶色っぽい髪は長くて髪質もすなおだ。それが、灰色で、襟にだけ赤と青の細いラインが入るセーラー服という、わたしたちの高校の制服に似合っていた。

 そんなこともあり、おしゃべりで陽気そうだということもあって、最初のうちは女の子たちのグループに入っていた。

 しかしだんだんと「敬遠」されるようになって、夏休み前には孤立していた。

 やっぱりその「突き抜けた」表現や、しゃべるときとしゃべらないときの落差の大きさが原因だろう。

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