内容がギッシリと詰まった上で余裕を漂わせたただならぬ歌集

総じてセンチメンタルだが実はそこまでベタベタした感触がない点、強い情動で貫かれた歌が並んでいながらも恋愛歌が少ない(ほぼゼロである)点がよい。
多用されるネガティブな言葉とは裏腹に「乾いたセンチメンタリズム」という一見矛盾する二要素が組み合わさっている。
内容がギチギチに詰まった歌でありながら余裕や揺らぎを持たせているところも一見矛盾する要素の合体だ。



「澄み渡る宇宙に溺れてしまいたい殺したい、ああ すべての星を!」
「澄み渡る宇宙に溺れてしまいたい」という上の句に連なるのが「殺したい、ああすべての星を!」という落差が凄まじい。

他の人がどう読んだかはわからないが、私はこの歌をユーモアとして捉えることができると思う。
「溺れてしまいたい」「殺したい」といったネガティブな情動とは真逆に「あの空でペカペカしてる星、ぶち殺してぇなぁ〜」という発想には一転した笑いの精神が見られるのではないか。
なぜ「すべての星を」「殺したい」のかは書かれていない以上わからない。
しかし「ああすべての星を!」の勢いはむしろポジティブな感じすらあるのである。
「星、調子乗ってんじゃねえぞ。なにニヤニヤキラキラしてんだコラ」というつもりで「殺したい」と書いたなら、これはやけっぱちのユーモアと呼ぶべきではないか。

「幽霊が問う(どうしたら死ねますか?)幽霊が言う(笑うといいよ)」
ということなので、やはり「笑うといい」のではないだろうか。

「ぼとぼとと椿の花が落ちていき葉だけが残るいつかの地球」の空想も〈「椿の花」が「落ち」るといえば「首が落ちる」ということだ〉とネガティブにばかり捉えるのではなく、
「椿の花がボトボト落ちてるなぁ。そのうち地球上全ての椿が葉だけになるのかなぁ」という発想の飛躍をたのしんでも良いではないか。