お試しダイジェスト版! 【読者への挑戦状】季節は巡りて

雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐

第12話 占い

人物関係


諫早 周平……僕こと主人公

暁 春太郎……友人

蝶野 夏央……友人

夏目 草次……旅先で会ったカップル

白羽 由美子……旅先で会ったカップル



暁春太郎と夏目草次はお互いを「相棒」呼びしている。


◆ ◆ ◆ ◆


ここまでのあらすじ



 僕こと主人公の諫早周平は、友人の暁が抽選で当たったバカンス旅行に来ていた。同じくバカンスに当たったカップル。夕食の前にタロット占いで遊ぶことになる。占うのは由美子。



以下、本文



◆ ◆ ◆ ◆


 テーブルで、暁、夏央、それに草次さんと、由美子さんが何かに興じていた。ものすごく盛り上がっている。



「何してるのさ」僕は覗き込む。



「よっ、本の虫のご帰還だ!」暁がからかう。



「今ね、由美子が占いをしてくれているんだ」と夏央。



「それで、どんな占いをしてるの?」机の上をのぞきこむ。



「これさ!」草次さんが机のカードを取り上げる。



 トランプとは違い図柄が入っている。なんだろうか。



「タロット占いさ。周平も聞いたことくらいあるだろ?」と夏央。



「うーん、聞いたことはあるけど……。どんな内容かは知らないな」



 自分は人より知識があると自負しているが、占いなどは信じていないので守備範囲外だった。



「タロットはね、それぞれのカードに図柄が入っているの。それを横に三枚並べることで、過去・現在・未来を占うの」由美子さんが静かに言う。



「もちろん、図柄を見て『こうだ!』って断定するんじゃないの。図柄や順番からインスピレーションで読み取るの」



「見てりゃあ分かるって! 次は相棒の番だぜ!」どうやら次は草次さんの番らしい。



 暁の言うとおりだ。百聞は一見に如かず。黙って見ることにしよう。由美子さんはカードの束を丁寧にカットする。



「さあ、草次の結果は……過去から順に、『愚者』、『恋人』、『星』ね。これの意味するところは……まずは過去のカードの『愚者』ね」



「おい、愚か者は酷いだろ!」



 カードには今にも崖から落ちそうな男が描かれている。男の視線は上の方を向いているので、あと一歩進めば崖から真っ逆さまだ。まさに愚か者といった感じだ。



「焦らないで、草次。『愚者』の意味には、はじまりや開放的っていう意味もあるの。うーん、この場合は……開放的っていう言葉が適切かしら」



「よかったな、相棒!」暁がニヤリとする。



「まあな!」



「静かにして。次は……『恋人』ね」



「これなら、素人にも分かるぜ。つまり、草次と由美子のことだな」夏央の言葉に由美子さんは真っ赤になる。草次さんはまんざらでもなさそうだ。



「……そうなるわね。最後に未来。これは『星』のカードね」かがみ込んだ女性の上に、無数の星が描かれている。



「で、俺の未来はどうなんだ?」草次は急かす。



「簡単さ。『死んでお星様になる』ってことさ!」暁が茶化す。



「そりゃないぜ、相棒」



「そうね、これは……平穏とか希望という意味だわ」由美子さんは二人のやりとりを無視して続ける。



「じゃあ、話は早い。恋人の次が希望や平穏だろ? つまり、草次は由美子と結ばれて幸せになるってことだ」インチキ占い師の夏央が言う。



「そうだといいんだけど……」由美子さんは自信なさげだ。



「まあ、全体としては悪くなさそうだな。愚か者はいただけないけれど。次は誰の番だ?」草次さんがあたりを見渡す。



「夏央なんかどうだ?」暁が指名する。



「夏央さんね。カードを切り直すから、ちょっと待って。……さて、どうなるかしら?」



 由美子さんが三枚のカードを並べる。順に天使みたいな絵、輪っか、塔だ。



「最初は『節制』のカードね。これは健康とかバランスが良いって意味ね」



「お、いきなりいいカードが来たぞ! 続けてよ!」



「次は『運命の車輪』ね。つまり、そのまま運命とかターニングポイントって意味よ」



「それで、それで、未来はどうよ?」夏央は自分の番になると真剣に聞く。かなり前のめりになっている。



「『塔』のカードね。突然の変化、啓示、転落などの意味があるの」



「転落ぅ?あまりいい響きじゃないな……」夏央はため息をつく。



「でも、安心して。ターニングポイントの次だから、啓示を受けてひらめきが訪れるとも読み取れるわ。全体を通すと……バランスを保っていたところに、ターニングポイントが訪れて、ひらめきを得る、もしくは驚かされるって感じね」



「うーん、全体的に見れば可もなく不可もなくだな」夏央は肩をがっくりと落とす。もっといい結果を望んでいたようだ。



「次は相棒の番だ! 周平は最後だから、大人しく待ってろよ!」と草次さん。



「さて、相棒よりいいカードを引くぞー」暁が張り切って肩を回す。



「あの、カードを引くのは由美子さんだと思うんだけど……」僕がストップをかける。



 しかし、暁が人の意見を聞くはずもなく、三枚のカードをえいや、と並べる。



「しょうがないわね、本来は占う本人が引くんだけど。最初は、『月』ね。想像力や幻影、戸惑いって意味があるわ」



「うーん、よく分からないな。次行こうぜ、次!」暁は真ん中のカードを指す。



 なんか偉そうな人が書いてある。何かに乗っているようだ。



「これは『戦車』ね……勝利、意志などの意味よ。最後は――」



 空気が凍った。



「デス――死、か……」暁が固まる。



「……確かに、そのまま読むと不吉だけど、違う意味もあるわ。移り変わりって意味もあるの。だから、今回の場合は……そうね、戸惑っていたけど意志が固まって、移り変わるってこと。だから、何か強い意志を実行して、状況が変わるってところじゃないかしら?」由美子さんがフォローする。



「……」

 暁は心ここに在らずで、由美子さんの言葉が届いていないようだ。それにしても、死のカード番号が十三番だとは。かなり不吉だ。



 僕は気づいた。タロットは占い師がカードからインスピレーションを得て占うものだ。つまり、解釈の仕方は占い師次第とも言える。由美子さんはみんなが悪いカードを引くたびに、ポジティブな解釈をしていた。彼女の優しさが伝わってきた。



「……まあ、気にすんなよ、相棒。もうすぐ夕飯の時間だぜ! シャキッとしろよ!」草次さんの声が虚しく広間に響いた。

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