第6話

 それから何度か張り込みしてみるも、結果は全て同じ……張り込みを諦めて丁字路付近に差し掛かると、白露さんに挨拶されるのだ。その間に通る電車組は慣れて来たのか「またやってるぜ……」みたいなことを丁字路過ぎてから話題に挙げるようになったけど、誰が誰だか分からないので話を聞くことが出来てない。クラスの連中っぽいのいないし。

 そしてだけど白露さんに対する恐怖が増した。ついでに好奇心も。

 それでまあ色々考えてみたりしたけど……色々考えた結果、思考放棄も吝かでないくらいに面倒に思えてきた。というか考えるよりも先に、やれることあったなと思い至ったと言うか。


「――白露さん、一つ聞いていい?」

「? どうしたの?」


 夏休みも間近に迫ったある日。この日もまた件の丁字路で白露さんと遭遇し、通学路を肩を並べて歩いてい僕は、ここ数ヶ月の悩みを吐き出さんとばかりに告げる。


「通学路で僕達会い過ぎじゃない?」

「――」

「普段の通学時間ならまだしも、寝坊して遅刻しかけたときとか、早く家を出た時も会うの、流石に偶然で片づけられる域を超えてると思うんだ」

「……」

「だから教えてほしい。これは意図したこと?」

「……ごめん」

「? なんで謝るの?」

「迷惑だった、よね」


 白露さんは顔を俯かせて足を止める。

 振り返ってみれば、心なしか肩を震わせているように見えた。

 んー、語気強すぎた? これは反省。


「迷惑じゃない」

「え?」

「迷惑じゃないよ。僕はただ知りたいから聞いてるんだ。白露さんがどんな理由で、どうして僕と登校するのか、何故このような行動に出るに至ったか……これは批判とかじゃなくて、純粋に僕の好奇心なんだ。紛らわしいことをしたようだけど」

「じゃあ、別に嫌ってわけじゃ、ないんだね?」

「……白露さんが僕にどんなイメージを持ってるかは知らないけど、話すのは好きよ。普段学校じゃ話す相手がいないから、無口な奴って誤解されてる節があるけど、白露さんとの会話が嫌なわけじゃない。美少女なら尚更ね。

 正直会話役に選ばれて光栄とも思ってるし」

「そんなんじゃ――!」


 白露さんは何事かをいいかけて、また俯いてしまった。

 僕の目線からだと、顔をすっかり隠してるショートヘアの隙間から、赤くなった頬が微かに見える。

 ……あー、まあつまり、その線もあるってこと? 低確率で。

 まあこの際嫌われてもいいやの精神で行こう。僕は少し屈んで、白露さんと顔を合わせる。


「登校中の僅かな時間だけど、普段は学校生活の中で一切会話しない人が何故か話しかけて来る。遅刻しても早く家を出ても話す間柄。そこに意図がないと思えるほど楽天家じゃないし、意図があるとするならそれが何か知りたい。知らないと怖いというのもあるけど、それ以上に何で話しかけられるのか知りたい、そんな好奇心が抑えられなくなったんだ。だから教えてくれない? これは親の受け売りだけど……言葉にしないと、物事の大半は伝わらないらしいよ?」

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