第10話

「――結構長々喋っちゃったねぇ」

「ご、ごめん」

「謝んなくていいって。どっちかってと僕が色々質問したことが原因なんだから」

「でも予鈴が聞こえたときに引き留めたのは私だし」

「それに同意したのは僕だから――」


 このままじゃどっちかが根負けするまで互いに譲らないだろう……というか譲りたくなかったので、僕は無理矢理白露さんの手を取って、学校とは別方向に足を延ばすことにした。


「少し歩こう」

「う、うん……でも、こっちって、学校と逆方向」

「もう遅刻なんだし、これから更に数分遅れても問題ない問題ない」

「それに手……」

「ダメだった……?」


 指をからませ、少しギュッと握ると、白露さんはリンゴのように顔を真っ赤にした。


「だ、駄目じゃない……です」

「じゃあ問題ないね」


 半ば押し通すような感じで手を繋いだまま、肩を並べて歩きだす。


「……からかってるんじゃ、ないよね」

「からかう気持ちもない訳じゃないねー」


 これはちょっとした仕返しである。まあ、効果はてきめんなようでなにより。


■■■■


「それで、僕らはこれからどうするの?」

「え……」


 普段の通学路から逸れ、最寄りの駅前に来た僕と白露さんは、駅の待合室でちょっとした涼を取っていた。


「白露さんの行動は理解した。納得もしたけど、これからも待ち伏せする気なの?」

「それは……」


 白露さんは顔を俯かせた。

 さすがに今までのようには出来ないだろう。


「……津木華君は、どうなの?」

「僕?」


 まさか自分に聞かれるとは思わず、聞き返す。


「津木華君は嫌じゃないって言ってたけど……さっきの聞いても、まだ同じこと言える……?」


 ……そこかぁ。と思った。

 まあ確かに驚きはしたし、若干引きはしたけど、別にそれで変わる意見でもない。


「全然言えるね。あと、僕もそれ聞いて少し申し訳なさくらい抱いたし」

「申し訳なさなんて……勝手にやってることだから」

「勝手にやってることでも、僕が遅刻したり、別の道をあえて通って行った日とかは待ちぼうけ食らわせてるわけだし……ああ、僕も勝手に申し訳なさを感じてるってことでいい?」

「……そんなこと言われたら、駄目っていいづらいじゃん」

「でしょー?」

「きっ、聞こえてたの!?」

「そりゃあ隣に座ってて聞き取れないほど聴力悪くないし」


 まあわざと拾って反応したけど。


「……津木華君って意地悪だよね」

「えー、ひどーい」


 よく言われるけどね。

 さすがにこれは演技だとバレているのか、白露さんは更に不機嫌そうにする。ふくれっ面も様になってるの、美少女って生き得だよね。


「まあそれはさておき、もしもこれからも一緒に登校するなら、連絡先くらい交換しない?」

「する! します!」


 勢い凄い……というか感情の緩急あり過ぎて見てて面白すぎて笑っちゃう。

 そんな僕の思考を汲み取ったのか、顔を赤くしてまた俯いた。

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