第8話

「怪しまれるんじゃない?」


 引き留められた手を無理に解くのも違うような気がして、僕は白露さんと手を繋いだまま、近くの日陰に移動して会話を続けることにした。


「そうかもね。だけど……津木華君とだったら、いいかな」


 「それにまだ、津木華君の疑問に答えきってないし」と白露さんは悪戯の成功した子どものような笑みを浮かべて言う。以前に感じたものとはまた別ベクトルで恐怖を抱かせる笑顔でもあった。


「……それで、白露さんの変化が、どう通学時間を合わせることに繋がるのさ?」

「もう分かってるんじゃない?」

「どうだろう。推測は幾らでも出来る。だけどそれらはどれだけ突き詰めようが、想像・妄想の域を出ることはない。この疑問の本当の答えは、実行者とその共闘者しか知り得ないからね」

「それもそっか」


 日除けに使わせてもらってる塀に白露さんはもたれ掛かった。


「――私達、学校で接点ないじゃん」

「まあ、確かに」


 異性だし、それ以前に共通の話題がない。接点がないのは当然だ。


「私が学校で話しかけるのは不自然だし、それ以前に恥ずかしい。だけど津木華君と話したいし、近づきたい……」

「だから通学中に話そうって?」

「佳穂の提案でね」


 佳穂……というのは、以前にも聞いた名前な気がする。確か中間考査直前の頃だったか。

 まあ人名はさておき、その人が提案して、白露さんが実行したってことね。


「そうだったんだ」

「理由は聞かないの?」

「聞かれたいの?」

「それは……」


 白露さんはまた押し黙る。

 言いたくないなら態々挙げなきゃいいのに。


「話変えるようで悪いけど、もう一つ聞いていい?」

「……何、かな」


 わかりやすいくらいに警戒の色を強くする。

 そんな今更な様子がツボに入りそうだけど……抑えて、だけどからかうことは忘れないよう、次の質問を紡ぐ。


「そう身構えないでいいのに……取って食ったりはしないよ?

 それでだけど、僕が丁字路に来るタイミング……何で分かるの?」

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