第10話 翼があるトカゲ……ほな、ドラゴンやないか!

「———ふぅ……何か勝てたな」


 俺は頭突きによって奇跡的に気絶した男を見下ろす。

 男は額から血を流して白目を剥きながら気絶していた。


 ふっ……昔から頭が固いって巷で有名だった俺を舐めた罰だ……俺に希望をもたせるような事を言いやがって……!!

 こちとら伊達にオークのパンチを食らって悶える程度で済む石頭じゃないんだ!


 俺は一頻り男を煽った後、手探りで俺の手首を拘束する鍵を探す。

 一応今俺がいる馬車の荷台は運転する人からは見えない作りにはなっているが……バレるのは時間の問題なので急ぐ。


「くそッ……無いじゃねぇか……あ、あ、あった!」


 恐らく俺が頭突きをした際にどこからか落ちたらしい鍵が地面に落ちているのを見て急いで取り、四苦八苦しながらも何とか手錠を外した。


「っつぅ……手首に食い込んで痛かったんだよな……」


 さて、拘束から抜け出せたのは良いけど……これからどうしようか。

 正直ここから全くのノープランなんだよな。

 だって荷台からじゃ外が見えなくて場所が分からないし。

 

 試しに荷台の扉を開けようとしてみるが……まぁ当たり前ながら開かない。

 こうなったら———。




「よし、馬車が止まって運転手が扉を開けた瞬間ぶん殴って逃げよ」




 取り敢えず待つしか無い。


 俺はその場に座り、懐に入れていた1つの瓶をそっと手に取った。












 ———どのくらい時間が経っただろうか。

 

 俺的には既に何時間も経過したように感じるが……実際にはどれくらい経ったのか検討も付かない。

 因みに気絶した男は、相当俺の頭突きが効いたらしく未だ起きる気配はない。


 ……ジッと待ってるのクソ飽きたんだが。

 この荷台薄暗いから普通にメンタルやられるんだけど。


 ただ、待っている間に一通り荷台に乗せられているものは把握した。

 乗っているものは全部で5種類。


 まず俺と気絶したよく分からん男。

 次にこの荷台を照らす弱いランプ。

 そして何に使うのか全く分からない、箱に詰められた大量の短剣と魔導具。

 最後に———。




「…………」

「きゅっ、きゅう!」




 明らかにヤバいと思われる、箱の中に入った檻に入った———真っ黒な翼の生えたトカゲ。

 

 ……え、絶対ドラゴンじゃん。

 マジで何してんのこいつ等……ドラゴンなんて何処から持ってきたんだよ……。


 因みにこの世界でも前世同様、ドラゴンはこの世界における最強生物だ。


 20〜30メートルの巨体。

 上級魔法ですら簡単に弾く鱗に、魔鉄をもあっさりと斬り裂く爪。

 そして———圧倒的飛行能力と上空からの全てを燃やし尽くす灼熱のブレス。


 しかもそれがまさかの標準装備。

 ドラゴンを統べる竜王にもなれば、現代の魔法より遥かに強力な古代魔法や神剣と呼ばれる神によって創り出された剣がなければ対抗すら出来ないと来た。


 うーん、無理ゲー。

 あんなのは人間が勝てる生き物じゃない。

 多分ナードくらい強くかったとしても通常種すら勝てないと思う。

 俺だったらコンマ1秒の間に死んでるな。


 そんなドラゴンと思われる生物が、俺の目の前にいる。


「……えーっと」

「きゅう? きゅっ!」


 俺がどうしようかとドラゴンっぽい翼の生えたトカゲを見ていると……全く不純のない純粋なくりくりの瞳をこちらに向け、こてんと小さく首を傾げてきた。


「…………っ」


 か、可愛い……!!

 え、何この子……めちゃくちゃ可愛いんだけど!

 普通にドラゴンじゃなかったら持って帰りたいくらいなんですけど。


 正直エリーシャと交換でも良いから欲しいくらい可愛い。

 そんなかわい子ちゃんが俺をジッと何かを伝えようとしているかの如く見つめてくる。

 普通に尊死しそうだけどだいじょぶそ?


「……出してほしいのか?」

「きゅっ!」


 俺の言葉に元気良く返事をするドラゴン(仮)。

 さて、ここで究極の選択だ。


 このまま何もしないか、それとも出してあげるか。


 良く分からないが、この選択で何か俺の未来が結構変わる気がする。

 何かそんな予感がビンビンしている。


「…………」


 俺は此方をくりくりお目々で見つめてくるドラゴン(仮)を眺める。

 もしこれが出してもらうための演技なら、出した瞬間俺は死に、周りの環境全てが変わってしまうだろう。

 正直、前世でファンタジーに出てきたドラゴンよりも大分恐ろしい。


 だって、この世界でドラゴンの通常種を狩ったことある人間と言えば片手に収まる程度だぞ?

 標準の身体能力が前世の世界を遥かに超越しているこの世界で、だ。

 そんなんが暴れたら俺なんか一瞬で消し炭になるわ!

 よし、このまま檻の中に……。


 俺がそう決心しようとしたその時。




「……きゅう……?」




 ドラゴン(仮)が檻の間からちっこい手を伸ばしてそっと俺の手に触れ、懇願するように鳴いた。


 …………。


 俺は、この子を助けることにした。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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