第2話 金髪美少女の正体
———結局連れ帰ってしまった。
「……取り敢えず、コレ塗って下さい」
「あ、ありがとう……ございます……」
俺は家にある唯一の回復薬(様々な種類の薬草を配合したオリジナルの塗り薬。効果だけは保証する)を美少女に手渡す。
金髪碧眼の美少女は、今まで見たこと無い薬に若干ビクビクしながら受け取った。
そ、そんなビビらなくても……。
いやまぁ、見ず知らずの人が、自分が今まで見たこと無い薬を渡してきたらビビりもするか。
俺だったら警戒する……あれ?
寧ろこれが普通の反応なのでは?
俺は今までに回復薬を渡してきた奴らの顔を思い浮かべてみるが……全員全く気にした様子なく塗っていた。
そしてそいつらの顔を思い出すと同時に納得した。
あぁ、初対面の奴に知らない薬を渡されて警戒もせずに使いまくった俺の周りがおかしいんだわ。
見た目ドブより汚いのに良く嫌悪感を1ミリも出さずに塗ってたな、あいつ等。
俺が頭に浮かんだ『類は友を呼ぶ』という言葉を必死にかき消していると……。
「———こ、これは……!!」
———突如金髪美少女が目を見開いて声を上げた。
俺が突然大きな声を上げられてビクッと肩を震わせると、金髪美少女は『あ、ごめんなさいっ』と謝りながらもグイグイと俺に回復薬と自分の腕を見せてきた。
「こ、この回復薬はどこに売っているのですか!? この腕にあった傷が一瞬で綺麗さっぱり消えて無くなったんです!」
「え、普通に自作ですけど……てかそんなに驚くことっすか? 俺は使ったこと無いけどそこらにもっといい薬はあるんじゃ……」
それにどうせこの子貴族でしょ?
絶対平民が手に入れられない超高級な回復ポーションとか買ってんじゃないの?
てかコレ使った奴ら、全員が口を揃えて『これ、売り物にならないくらいの気休め程度の回復薬だな』って言ってた———。
「———そんなことありませんっ!! 毒や呪いの付与された傷を一瞬で直せる薬なんて、それこそ神聖国の聖水くらいしかありませんよ!?」
「………………ゑ?」
この美少女は何おかしなことを言っているんだろうか。
こんな素人が薬草を適当に混ぜて作った回復薬が、世界で最も効果が良いと言われているエリクサーの次に有名な聖水と同等だって?
何馬鹿なことを言って…………ん?
俺は目の前の美少女がおかしなことを言っていると一蹴しようとして、そう言えばナードを筆頭とした俺より強い冒険者達がしょっちゅう俺の回復薬を使うことを思い出す。
その度に『これは売り物にならない』と言っているが……。
「……これ、君ならどれくらいで買う?」
「えっ? そうですね……聖水の様に一気に回復するわけではないのでアレですが……最低でも金貨2枚であれば破格の値段と言えるでしょうね」
「……これ、売れないと思う?」
「めちゃくちゃ売れます」
金髪美少女がそう断言した瞬間、俺はテーブルを台パンする。
金髪美少女がビクッと肩を震わせて驚いた様に俺を見てくるが……そんなの今は心底どうでも良かった。
や、やってくれたな……あのクソ野郎共……。
俺はワナワナと肩を震わせ、叫んだ。
「———あ、あのクソッタレ共……自分達が買う回復ポーション代を浮かせるために徒党を組んで俺に嘘を吹き込みやがったな!? なぁにがやれ売れないだのやれ気休め程度だ! 絶対アイツ等に金払わせてやるッッ!!」
俺は取り敢えず、今までこの回復薬を使った奴らに金を請求するべく冒険者ギルドに殴り込みに行くことにした。
「———だ、大丈夫ですか、その傷……? 一体何が……」
1時間後、俺は泣いて家に帰ってきた。
家で待っていてくれた金髪美少女に背中を擦られながら俺は無様に負けて帰ってきた様を伝えた。
「グスッ……ナード達に寄って集ってイジメられた……」
「えぇっ!? なぜネイト様が……別に今までネイト様を騙して使っていたのならお金を払うのは普通なのでは……」
「アイツ等に常識を説いても意味ないってことをさっき改めて思い知ったところだよ」
それと君が物凄く優しい子だってこともね。
「あ、そう言えば君の名前って何なの?」
俺は暫くの間、美少女に背中を擦られるという前世なら高額な料金を請求されていたであろうプレイを堪能したのち、ふと思い出して聞いてみた。
帰りに俺の名前は伝えて、名前を聞いたのだが……彼女は『こ、ここでは言えません……』と言って教えてくれなかったのだ。
その言葉を聞いて、足が一気に重くなったのは言うまでもない。
だって絶対面倒事持ってるじゃん。
何だよ、ここでは言えませんって。
「そう、ですね……ネイト様にはお世話になりましたし、名乗っておきましょう」
美少女は、それはもう綺麗な貴族令嬢式の礼をして言った。
「———私の名前はエリーシャ・ラシュゲイン。今は亡き、ラシュゲイン皇国の第1王女です」
あ、知ってる。
俺みたいな凡人が関わっちゃいけない人だ。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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