第9話 分かってました、ええ、勿論
「———…………」
「……飲まないんですか? 先程からずっとそのままですけど」
俺が家に戻ってずっと買った薬を見つめながら固まっていると……痺れを切らしたらしいエリーシャが問い掛けてきた。
「……飲むよ? 勿論飲むよ? 別にやっぱりいざ飲むってなると怖いなぁとか思って葛藤しているわけではないからな」
「思ってるんですね……なら何で買ったんですか……」
何でって言われたらそりゃあ———。
「安かったからに決まってんじゃん」
「それで飲まないなら全く意味ないじゃないですか!?」
でも安かったら買うだろ。
もしこれを逃して、次に買いに行ったら金貨1枚になってましたなんて言われた日には普通に後悔で数時間くらい落ち込む。
買わずに後悔するくらいなら買って後悔した方がマジだ。
「よし、コイツらはもしもの時用に使うとして……」
「結局怖くて使わないんですね……」
「使わないんじゃなくて、温存って言うんだよ。そこの所を間違えるなよ?」
俺は失礼なことを口走るエリーシャに釘を刺す。
決してビビッたわけじゃない。
無いったら無い。
「さて、次は武器だ」
「え、まだ続けるんですか?」
エリーシャが俺の言葉に素っ頓狂な声を上げて此方を驚いたように見てきた。
まさか今の薬で終わりだとでも思ったのだろうか。
「もしかして薬で終わりだと思ってた感じ?」
「は、はい……だって結構凄い薬を手に入れていたので……」
「甘い甘い甘すぎるよエリーシャ! そんな筋力3倍とか魔力5倍で俺があんな化け物たちと戦えるわけ無いだろ。素が俺だぞ? 強力な炎魔法が使えるエリーシャの魔力5倍と大した魔法も使えない俺の魔力5倍とじゃ脅威度が全く違うだろ? それと同じで俺が幾ら強くなろうがそもそも強い奴には敵わないんだよ」
筋力とかはもっとそうだわ。
多分今の俺の筋力が3倍になった所でナードには絶対勝てないぞ。
3倍になったとしても、当初、3秒持つか持たないかだったのが10秒持つか持たないかに変わった程度でしか無いと思う。
「———というわけで……いざ、武器屋に出発!!」
「———死ぬほど外に出たのを後悔したわ」
「黙っていろ。何故こんな男が……貴様は何者だ?」
「ただのしがない一般通過冒険者です」
「……巫山戯ているのか?」
「ガチです」
えー……普通にまた掻っ攫われました、俺が。
俺は絶賛身体を拘束されて馬車に乗せられていた。
勿論攫われたくて攫われたわけじゃない。
数十分前、俺とエリーシャは宣言通り街1番の武器屋に向かっていたのだ。
しかし突然街を爆走する馬車がやって来たと思ったら……俺達の真横スレスレを横切った。
その瞬間に猛烈に嫌な予感がして咄嗟にエリーシャを庇ったのだが……それが良くなかった。
本来エリーシャを掻っ攫う予定だったのだろうが、俺が庇ってしまったために代わりに俺が掻っ攫われることとなってしまった、と言うわけだ。
相手も相手で物凄い速度だったから止まるにも止まれず、物凄い気まずい空気の中こうして一先ず俺は拘束されて詰問を受けている。
「貴様はエリーシャ元王女とどういった関係だ?」
「他人です」
「なら何で隣を歩いていた?」
「向こうが付き纏ってくるからです」
全部本当というわけではないが、全部嘘でもない。
他人なのは本当だし、俺的には今直ぐにでも強い奴にエリーシャの身柄を引き渡したいので付き纏われているとも言えないこともない。
俺が澄んだ瞳で目に傷のある男に言えば……男はドン引きした様子で零した。
「こ、こうも清々しく悪気のない瞳で自身の身の潔白を証明するために相手を貶める奴は初めて見たぞ……」
「……あれ? もしかしなくてもボロクソに言われてる? 全部事実なのに?」
おかしいな……それじゃあまるで俺が超ゴミ人間みたいじゃん。
俺は良い人でもないけど悪くもない普通の人間だよ?
しかし俺の思いは通じず、完全に目の前の男の中で俺はゴミクズ人間認定されたようだ。
「と、ところで貴方は誰なんですか……?」
「教えると思ったのなら愚者としか言えんな。それとも……意図して愚者を演じているのか?」
「愚者を演じれる程俺が賢そうに見えますか?」
「…………見えんな」
じっくりと時間を掛けて俺を観察した後、同意してきた。
自分で言っといてなんだけど普通に傷付くんですけど。
俺、もしかしたらこの人と猛烈に相性が悪いのかもしれない。
「……何でエリーシャを攫おうとしたのですか……? もしかしてエリーシャの国を滅ぼした———」
「———あいつ等と一緒にするなッッ!! 俺はあんな屑共とは違う!!」
俺的には結構当たり前の質問だと思ったのだが……どうやら思いっ切り地雷を踏んづけて飛び跳ねていたらしく、突然ブチギレる片目傷の男。
急な怒鳴り声に俺は物凄くビビりながら、恐る恐る尋ねた。
「……な、なら貴方はエリーシャの味方ですか……?」
もしそうなら是非とも彼女を受け渡したい。
もうこんな目に遭うのは嫌だ。
俺はそんな淡い期待を胸に彼の言葉を待ち———。
「いや、違う」
「ぶっ飛ばすぞ」
淡い期待を呆気なくぶち壊されたことによって普通に今度は俺がブチギレて、渾身の頭突きを食らわせた。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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