第8話 俺氏強くなる大作戦

「———よし、今から『俺氏強くなる大作戦』を始める!!」

「…………ど、どうしたんですか、急に……?」


 お姉さん達との超絶楽しい飲みの次の日の真っ昼間、俺はエリーシャに告げた。

 エリーシャは突然大作戦なんてことを言い出した俺を不思議そうに見つめて……理解できなかったのか首を傾げた。

 まるで俺が頭がおかしいみたいな反応をするエリーシャに俺は優しく諭すように語った。


「いやな? 俺はこのままだと———100%死ぬと思うのよ。だから死なないように強くなろうかなって」

「は、はぁ……?」

「何だよその生返事は! もっとシャキッとしろよ! この俺がやる気を出している内に動かないと2度とこの機会は訪れないんだからな!」

「いえ……ただ、つい昨日、自分は強くなれない的なことを言ってませんでした?」


 お、覚えなくて良いことを良く覚えているじゃないか。

 よし、減点をやろう。


「そんなことを言った覚えはあるけど気にしないで」

「覚えはあるんですね……」

「当たり前だろ。俺にはチートもなければ戦いの才能も魔法の才能も無いからな」

「ちーと……というのは良く分かりませんが……それだと強くなれない気が……」


 自信満々に答える俺に、エリーシャが困惑気味に首を傾げる。

 ただこの程度で困惑するエリーシャにはまだまだ浅慮と言わざるを得ない。


 俺は分からないエリーシャのために、教えて上げた。




「そんなの———薬で強くなるに決まってんだろ?」

「さも当たり前のように言わないでください!? それは多分1番駄目な考えですよ!? もっと別の方法を探しましょうよ!!」




 そんな才能を持っている側の意見を宣うエリーシャに、俺はブチギレた。


「ならどうやって強くなれと!? 何度も言うが俺に才能はねぇんだよ!!」

「ですが世の中の才能のない方でも努力を……」


 そんな理想論のようなことをタジタジになりながら言ってくるエリーシャを俺は鼻で笑い飛ばす。


「努力ぅ?? ———はっ倒すぞ! 凡人の努力が実を結ぶのは何十年の歳月が必要なんだよね? そんなんじゃ間に合わねぇよ! 凡人の俺が今直ぐ強くなるには薬しかないだろ!! ドーピング結構! おっと、寿命が縮むとか言うなよ? 寿命数日より10年寿命が縮む方が100億倍マシだろ!! 背に腹は代えられないんだよ!!」

「…………」


 こうして俺はエリーシャを完全論破して街へと繰り出した。










「———……ちょっと予想外かな。帰りたい」

「さっきまでの力説具合はどこに行ったのですか!?」


 俺達は薬を買うために裏取引の店があるという場所やって来たのだが……あまりにもおっかな過ぎて普通に気圧されていた。

 

「いやだって……こんな沢山の動物とか人間っぽいやつのホルマリン漬けがたくさんあるとか、普通に目玉が売られてるとか普通考えないだろ。人を呼び込む気あんのかこの店。こんなん普通に発狂もんだわ」

「———随分と酷いことを言ってくれるじゃない、坊や」


 俺とエリーシャは、バッと声のした方へ顔を向ける。

 そこには1人の女性が立っており、さも面白そうに俺達……特に俺を見ていた。

 その瞳を見返した瞬間、冷や汗が噴き出してきて、エリーシャは顔面蒼白の状態で固まっていた。


 ……全く気配に気付かなかったんだが。

 俺の自慢の勘も全く機能しなかったし……何だろ、この関わったらいけない感満載なのに今俺の1番欲しいものを持ってそうなの。


 ただ、今回は普通に安牌を取ることにした。


「……あ、じゃあ俺達はこれで。安心して、また来世で来ますよ!」

「それは2度と来ないってことじゃないのよ」

「…………そんなこと無いですよ?」

「ふふふっ、本当に面白い子ね。まぁそんなに警戒しないで?」

「……いや、こんな店の店主が貴女なら普通警戒するでしょ。あと自慢じゃないんですけど、俺は強くないんで警戒しとかないと直ぐ死んじゃうんですよ」


 俺はあの女が現れてから全く話さなくなったエリーシャに変わって、会話を続けながら店に出るタイミングを図っていた。

 しかしそんな俺の考えを読んだかのように、突然入口の扉が閉まる。


「ほら、もう逃げ場は無くなったね?」

「Sだ! きっとこの人根っからのドSだ! ごめんなさい、俺にそっちの趣味はないんです」

「ふふふ……あはははっ! ネイト君は本当に面白いねぇ」

「いえいえ俺なんか本場の芸人には敵わ…………待って、何で俺の名前知ってんの?  理由によっては普通にこの店爆破するけどいい?」

「まぁまぁ落ち着いて、ネイト君。君が望んでいるのは———これのことかな?」


 そう言って何処からともなく小瓶に入った色とりどりの液体が混じった3種類の何か現れる。

 明らかに怪しいなんてどころじゃないくらい怪しい。

 

「……何ですか、これ」

「筋力を3倍にする代わり調子に乗ったら1週間超痛い筋肉痛になる『筋肉増強薬』と、魔力が5倍に増える代わりに見えすぎて視界がキラキラする『魔力増強薬』、感覚が拡張される代わりに慣れるまで騒音、光、味覚の全てが超絶敏感になる『感覚拡張薬』。全部銀貨1枚」

「———買った!!」


 俺は怪しいとか怖いとか全部頭から放り投げて即買いした。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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