第7話 一時の休息

「———終わった。俺の人生終わった。今までクソ頑張ってきた結果がコレとかマジで人生ゴミクソだなクソッタレが。あれか、極上ベッドを買ったのが原因か? たったそれだけで俺はこんなゴミみたいな人生を歩まないといけないのか? あぁ、何度でも言おう。この人生———いや、この世界はクソだな」

「ね、ネイト様……そ、そこまで悲観しなくても……だ、大丈夫ですっ! きっとこの先必ず幸運が巡ってきますからっ!」


 俺は昼間のくせに酒を飲む冒険者たちでクソ五月蝿いギルドの居酒屋で机の木輪を数えながら酒をあおり、ブツブツとこの世の不平不満を垂れていた。

 そんな俺を見ながら酒ではなくジュースを頼んだエリーシャが慰めようとしてくるが……。



「———誰のせいでこんなことになってると思ってんだ」

「……えっと……」



 俺がグラスに残る酒を一気にあおって新しいのを頼みながらエリーシャにジト目を向けると……エリーシャは両手でジュースが入ったグラスを持ってちびちび飲む動作を止めてスッと目を逸らしてきた。

 心做しか目が若干泳いでおり、手も震えている気がする。

 

「まぁそうだろうな。俺がお前のおりに任命されたせいでこんなことになってるんだからなァ!? 巫山戯んじゃねぇぞあのクソボケ爺がッッ!! 強くもない俺だったら命が幾つあっても足りねぇわ!!」


 そう、俺はあのクソボケ爺———ギルド長からエリーシャのお守りを任された。

 しかも俺が断れば冒険者ライセンス(冒険者の身分証明書みたいなもので、それがないと依頼が受けられない)を剥奪するとかいう頭おかしいくらいの横暴さ。

 もう俺に死ねと言っているようにしか思えないね。


「そ、そこまで言わなくても……」

「いーや、言うね。お前は超絶超特大の地雷を所持してるんです。それは俺みたいな凡人が受け止めきれるものじゃありません。よって今の俺を例えるなら……自らマグマの中に飛び込んでいるようなもんなのです。今の説明で分かりました? 分からねぇとは言わせねぇからな?」

「……わ、分かりますけど……」


 俺の事実陳列言及にタジタジになるエリーシャ。

 勿論彼女が成りたくてそんなことになってるなんて微塵も思っちゃいない。

 だが、巻き込まれる俺の身にもなって欲しい。


 こちとら人助けとかめちゃくちゃ良い行いをしたのに、俺の意志関係なくヤバいことに巻き込まれて命を奪われそうになってんだぞ?

 あまりにも理不尽過ぎるだろ。


 俺がそんなことを思いながら新しく来たビールをグビッと飲もうとしたその時———。



「———あ、ネイトじゃないか」

「ここで会ったが百年目、その命貰い受ける!! よくも俺をボッコボコにしてくれたなナードォォォォォ!!」



 昨日理不尽に俺をボッコボコにし、『オーク虐殺装置』とかいう不名誉なあだ名を付けやがった張本人である———ナードが声を掛けてきた。










「———で、その子は何方様?」

「あ? テメェにだけは絶対渡さんぞ。てか何で当たり前のように俺達の席に座ってんだよ。お前だけはあっちに座れ」


 俺はさも当たり前のように同じ机に座ってきたナード率いるハーレムパーティーを半目で見つめる。

 正確にはナードだけを、だが。


 正直ナードが死ぬほど要らん。

 コイツさえ居なければ傍から見たら俺のハーレムパーティーに見えるのに。

 でもコイツが居たらたちまちこのイケメンがハーレムパーティーの主だって思われるから尚更嫌いなんだよ。


「もぉ〜〜そうカッカしないの。お姉さん達と一緒に飲みましょネイトく〜ん」

「もっちろんですよクラリスさん。俺の奢りでいいんでじゃんじゃん飲んでください!」

「あら〜〜それは良いわねぇ〜〜」

「駄目に決まってるでしょ。ネイト君、この女の話は聞かないで良いわよ。今日は私が奢ってあげるわ」

「マジっすか!? さっすがアメリアさん! よっ、ギルドの頼れるお姉さん!!」


 俺に話し掛けてきたクラリスさんは、このギルド内男性人気トップの妖艶な魔法使いの美人お姉さんである。

 またアメリアさんも、ギルド内男性・女性共にトップを争う超人気者のしっかりものの美人さんで、この中で唯一俺が回復薬を使ったらお礼と言って奢ってくれるギルドの良心だ。

 そんな御二方と一緒にお酒が飲めるなんて嬉しくないわけがない。


「あぁ、ナードがクソ邪魔。ちょっとどっか行ってくんない?」

「まいどまいど僕にだけ当たりが強くない?」

「うるせぇ。テメェはギルドの男性人気最下位だ」

「そんな順位つけられてたのかい!? でも何で僕が最下位……」


 驚くナードには悪いが、お前が最下位の理由は腐る程あるぞ。


「ハーレム野郎、俺をATM呼ばわりする、イケメン、無駄に強い。これだけ揃えば男に嫌われるに決まってんだろ」

「あ、それは———」




「———……ナード? アンタ……ネイト君をATM呼ばわりしてたの? こんなに良い子を??」




 あ、アメリアさんはこのこと知らなかったんだな。 

 残念だったなナード、テメェは今日は生きて帰れねぇよ。


 俺は真顔でナードに詰め寄るアメリアさんを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべる。

 ふと周りを見渡せば、男性諸君が皆んな俺と同じ様に楽しそうに笑みを浮かべていた。


 そして当のナードはと言うと……顔面蒼白でジリジリと後退っていた。


「い、いや待ってアメリア……これには———」

「表に出なさい。絞めてやるわ」

「ちょっ———」


 俺はそんな様子を見ながら酒をあおり、笑顔で言った。



「いやぁ、ナードがボコられる姿を見ながら飲む酒は最高だな!! 良いぞもっとやっちまえっ!!」

「ネイト様、その趣味は辞めた方が良いと思いますっ!!」



 何かエリーシャがほざいていた気がするが、気にしないでナードがボコボコにされる姿を見ながら一時の平和を楽しんだ。 

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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