第4話 とりま逃げよう
「———…………何でぇ??」
目が覚めた俺は、キョロキョロと辺りを見渡し、薄暗い地下牢のような所に閉じ込められていることを理解して———心の底からの疑問を吐いた。
いや、何で俺まで捕まえられるんだよ。
俺なんか捕まえて何になる??
あ、回復薬か?
俺のエリーシャお墨付き回復薬の作り方が教えてほしくて拉致したんだな?
もうっ、そんなことしなくてもちょっと脅されたら直ぐにペラペラ話すのにっ!
全く……せっかちさんなんだからっ!
「———貴様は一旦黙れ!! 誰も貴様に話しかけてなどおらんわ!!」
突然、地下牢の檻の外から仮面を被った男が叫ぶ。
いきなりのことで普通にビクッと身体を震わせた俺は、彼の言っていることの意味がさっぱり分からず首を傾げた。
「え?」
「貴様もしや自分でも無意識の内にあんなにペラペラとくっちゃべっていたのか!? お前の頭はお花畑か!?」
「何言ってんだ? 俺の頭の中には一面に
「貴様が何を言っているんだッ! もういいから取り敢えず黙れ! さもなくば殺す!」
そう発狂した男が一瞬手を動かしたかと思えば……俺の顔面の数センチ横に短剣が突き刺さった。
当たってないのに金属特有の冷たい感覚が俺の頬に当たる。
「…………」
怖い。
シンプル怖い。
おしっこちびりそうだったもん。
俺は横に突き刺さった短剣を眺めながらブルブルと生まれたての子鹿のように震える。
しかし次第に、この世界の理不尽さにイライラが湧いてきた。
こんな片手間で投げられた短剣に当たっただけで即死なんて、この世界の神は一体どれほどの怠慢を働いているのか。
……怠慢は働くもんじゃねぇか。
一瞬で怒りが萎んだ。
「はぁ……あの男は一体何者だ、エリーシャ・ラシュゲイン?」
「……言ったはずです。彼は、私とは何も関係ないと」
どうやらエリーシャは必死に俺を庇ってくれているらしい。
いやまぁ流石に庇って貰わないと困るんだけどね?
俺は1番に置いて行こうとしたことを完全に記憶から消去して苦笑する。
そんな俺を他所に、お二方はヒートアップしていた。
「ほう……そこまでして話さないとは意外だな。たが……この様子だと、逆に彼に何かあるのか気になるな。まぁそれはあの男を殺せば分かるか?」
「くっ……貴方達は何故容易く罪のない人々を……!」
「そんなことはどうでも良い。それにしてもエリーシャ元王女。随分と……あの馬鹿な男を庇うようだな?」
「おい、馬鹿とはなんだ馬鹿とは。さてはお前……本物の馬鹿を知らないな? 本物の馬鹿って言うのはバーンドみ———」
「———だから黙れと言っているだろうがクソ雑魚ぉッッ!!」
「暴力反対ぃぃぃぃぃぃ!!」
俺は再び飛んできた短剣を己の危機感知能力という名の勘だけで避ける。
すると、奇跡的に回避できた。
冷や汗は止まらないけど。
は、ははっ……ど、どうよ!
伊達に並外れた危機察知能力でC級に上がっただけあるだろ……って、あ。
「……【鑑定】」
試しに短剣を鑑定してみる。
すると、『魔鉄製』と出た。
俺はそこでふと、良いことを思い付いた。
これが成功すれば、俺もエリーシャも助かるはずだ。
よ、よし、やってやる……!
お前の敗因は俺を舐め過ぎたことだ……!
俺は早速音が出ないようにゆっくりと短剣を引き抜く。
そして2本の短剣をそっと持ち……小さく呟いた。
「———【ヒートハンド】」
その瞬間に刃の周りが急激に熱せられ、熱伝導の良い魔鉄製の刃がどんどん熱くなる。
これは炎魔法を俺なりに改良した魔法だ。
炎魔法の性質は物質の加速らしいので、試しに俺の手の周りの空気を魔力で加速させたら、炎が出ないけどめちゃくちゃ熱いとかいう変な魔法ができてしまった。
ただ、手だと熱さに耐えられないので大した熱さには出来ず、当初はゴミみたいな魔法だとか思ってたけど……これは使えるぞ……!
だって手じゃなくて短剣だったら熱くも何ともねぇもん!
俺はどんどん短剣の刃を熱し、刃が真っ赤になるほどの超高温状態にすると———。
「はい、ファイアァァァアアア———!!」
1本だけ男目掛けてぶん投げた。
その瞬間———。
———ボォオオオオオオオオ!!
「ぐっ!? これは短け———あちぃいいいいいいい!?!?」
男の服が一気に全部燃え、男は全身火だるまになって転げ回り出した。
ただどうせコイツも人間離れした肉体を持っているので、この程度じゃ全然死なない。
しかし———時間を稼ぐことは出来る!
「ぇぇぇぇえええええい!」
俺は男が痛みに転がり回っている隙に、超高温に熱した短剣で檻の鉄格子を溶かし切って檻から脱出。
そのままエリーシャを拘束していた腕の拘束具を同じく溶かし切る。
「ね、ネイト様!?」
「驚くのは後でにしてくんない!? 俺じゃあの全身火だるま君には絶対天地がひっくり返っても勝てないからすぐ逃げるぞ!」
俺は戸惑いの隠せない様子のエリーシャの手を引っ張って走り出した。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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