第22話 幼き者の決意
「え? か、陰祓師にですか? オラが……」
「そう、陰祓師。二つ名、匣のカイリが、あなたを弟子にとるわ」
「ホントですか!? カイリさまが、お師匠さまにですか!」
ジンタの中の、純粋無垢な好奇心が強く刺激されたのか、彼はキラキラと輝いた瞳で私を見つめてくる。そんな、男の子の目をしていた。
「うん。でもまぁ、そんなすぐに戦ったりはしないよ? 毎日みっちりと体を鍛えて、戦闘訓練を経て……そうだなぁ、十年後ぐらいにようやく実戦かも」
「オラが、陰祓師に! ……あ、でも」
「ん? でも?」
「でも、こんなオラなんかと一緒にいたら、カイリさまに迷惑がかかると思うので……」
あんなにも輝いていたジンタの表情は、瞬く間に曇っていく。そうして、そのまま俯いてしまった。
この年頃の子なら、自分のやりたい事は後先考えずにやろうとするものだ。
だが、ジンタはそんな感情よりも自分の存在によってかけてしまうだろう迷惑や、他人への配慮を先に考えてしまっている。
それは彼が、ずっと穢れた血であると難癖をつけられ、閉鎖的な村の人々から酷い仕打ちを受けて来た事と、苦しむ母親の姿を見て来たからだと思う。
私は彼の境遇が、とても不憫に思えてならなかった。
「ねぇ、ジンタくん? 私の目の色、気づいているよね?」
「は、はい。その紅い瞳は、自分が化け物の子だってカイリさまが……あっ」
ジンタは自分の言った事が失言だったと気づいて、慌てて両手で口を塞いでいた。
「ふふ、いいよ。気にしてない。ホントのことだから」
「ご、ごめんなさい。オラ、何てことを」
ジンタは自分の失言に責任を感じているのか、さらに表情を曇らせてしまった。
私は、そんな彼の頭に手を置いた。
「カ、カイリさま?」
不思議そうな目で見てくるジンタの頭を撫でながら、私は自分の昔話を始めた。
「私ね、強くて優しい異形のお父さんと綺麗で美しい人間のお母さんの事がとっても大好きだったの」
「大好きだった?」
ジンタはそう訊き返しながら、首を傾げている。
「うん。私もね、小さい頃に異形に襲われて、その時に両親を亡くしているの」
「え? カイリさまも、おっとうと、おっかあを?」
「そう、と~っても恐ろしい異形でね。強かったお父さんもお母さんも、あっという間に殺されちゃった……」
ジンタは黙ったまま、真剣な表情で私の話を聞いていた。
「でも丁度その時にね、私が住んでいた里にある陰祓師が滞在していたの。とてもすごい人なんだって、みんなが口々に言っていたわ」
「その凄い人が助けてくれたんですか?」
「ええ。ただ泣き叫ぶだけの弱い私を、怖い異形から守ってくれたの」
ジンタは私の過去の話を、本に書かれたおとぎ話の様に感じたのだろう。興味津々で、食い入る様に体を乗り出してきた。
この辺は年相応なんだなと、可笑しくて思わずクスッと笑ってしまう。
「カイリさま。その凄い人は、どうやって異形を退治したんですか? 早く続きを聞かせてください!」
「え? あ、うん。ちょ、ちょっと、一度落ち着こうかジンタくん?」
勢いに戸惑う私の事など気にも止めず、ジンタは早く話の続きを聞きたいと催促してきた。
「どうやって退治したんですか! その陰祓師様は、色んな強い術とか武器とかを使ったんですか!」
ジンタはピンチに陥った私がどうやって助かったのか、凄い陰祓師がどうやって異形を退治したのか、それが気になって仕方がない様子だった。
「え、えぇぇぇ? いやその、わかんないけど。なんかこう、ピカピカって、光ったりぃ、光らなかったりぃ……?」
「そっかぁ! カイリさまみたいに、短刀を光らせて異形を退治したんですね!」
「は? い、いや、その……」
「すごい、すごい! やっぱり陰祓師ってすごい! カッコいい!」
「う、うん。す、すごいよね。私の憧れの人だから」
と、私はかなり適当な感じで誤魔化していた。純粋な彼の期待を裏切りたくないと言う一心で……嘘をついてしまった。
正直、その時の記憶は異形に襲われた恐怖と目の前で両親を失ったショックで、庇ってくれた陰祓師の背中しか覚えていない。
だから、どうやって退治したとかそんな事は一切分からない。
気づいた時には全てが終っていて、助けてくれた陰祓師とは違う人に連れられて、私は藤棚の里へと向かっていた。
……もう、かれこれ十年以上も前の話だ。
とりあえず話を締めようと、私はわざとらしく大きな咳ばらいをした。
「コホン! んん! まぁ、結局なにが言いたかったのかって。人と違う所があるとか、そんなのはどうだっていいことなの。見た目なんて全然関係ない。それよりも、どういう心構えで、どう生きるのかって事が、とても大事な事なんだよ」
「どう、生きるか……ですか?」
「そう、私がお師匠から学んだ大事な事こと。堂々と胸張って、自分の行いが誇らしくなる生き方をしろってね」
彼は何かを決意したかの様な瞳で、真っすぐに私の瞳を見つめてくる。
「オラもカイリさまの様に、強くてかっこいい、陰祓師になれるでしょうか?」
「なれる。君なら絶対に、なれるよ」
「カイリさま……」
「だって、ジンタくんは強い男の子だし、しっかりと自分ってモノを持っている。君ならきっと、私さえも超える凄い陰祓師になれるよ」
「ほ、ほんとですか?」
「うん、ホント。誰もが認める、匣のカイリが言うんだから」
私の言葉を聞いたジンタは、これ以上ないってくらい眩しい笑顔をしていた。
そんな彼の笑顔に、私の胸の奥が何かが揺れ動いた感覚を覚える。
それは可愛いから……だけでは無いと思う。大切な何かが増えた、そう感じた。
死ねない理由、またひとつ増えたのかも……
to be continued...
紅い瞳のメシアと碧眼のリベリオン~秘密匣もののけ奇譚~ みなみのねこ🐈 @minaminoneko
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