第160話 信じたうえで
時間は
☆☆☆
追撃の澱みの塊をぶつけられた俺は、仰向けに地面に叩きつけられた。
落下している間に防御魔術を使うことはできたので、ダメージはそこまでない。
しかし、星鎧は消滅してしまった。
どうやら昨日の戦闘の影響は大きいようだ。
だけど身体は動く。
なら、作戦通り進めるべきだ。
だが相手が悪すぎる。
やはり、
俺は身体を起こして、辺りを見回す。
周りは住宅地。
だが戦場である市役所近くの広場からはそう離れてはないだろう。
実際に市役所が少しだけ見える。
周りに人はいない。
警察による封鎖区域だからだろう。
遠くから「外に出ないでください」という放送が聞こえる。
……早く戻らないとな。
俺は立ち上がって、身体能力強化魔術を使用する。
そして、とりあえず市役所に向けて走り出した。
☆☆☆
星雲市市役所は駅周辺のオフィス街と駅から少し離れた住宅地の境目に位置している。
俺はぐるっと回って、オフィス街側にきた。
作戦上、天秤座の上を取る必要がある。
ならば、ビルに上ったほうが早い。
ここに来る途中に
無事だといいんだが。
……というか、何で
そんな疑問を持ちながら、とあるビルの外にある非常階段を上ろうと見上げる。
ただ、外からの入り口には扉と囲いがある。
しかし、2階より上には囲いがない。
つまりここに入るなら、2階以上の高さまで飛ばないといけない。
……助走をつけて、魔術で身体能力を強化したら届くだろうか。
そう思いながら後ろに下がって、助走をつけようとする。
そのとき「
声がした方向を見ると、戦闘から離脱したはずの
「……何でここにいる」
「私だって魔術師なんだけど」
「魔術では神秘に勝てない。お前だってわかってるだろ。」
俺がそう返すと清子から舌打ちしたような音が聞こえた。
「……私と言い争いしてる暇あるの?」
「……ねぇよ」
俺がそう返すと、清子は俺が登ろうとしているビルを見上げた。
「ここ、登るの?」
「あぁ」
「どうやって?」
「2階以上の高さまで飛ぶ」
清子からの返事は来ない。
代わりに清子は俺の正面、非常階段の下あたりに向かって歩いていく。
そして、召喚魔法で洋剣を呼び出した。
清子の考えが全く分からない俺は「何をする気だ」と質問する。
「魔力消費抑えたいでしょ。私が踏み台になってあげるから」
「……いいのか」
「そう言ってるでしょ。時間ないんだから、無駄なこと聞かないでくれる?」
それはそうだ。
そう思いながら、俺は「時間はないが聞きたくなるだろ」という言葉を飲み込む。
清子が何故
だけど、今はその手を借りるしかない。
俺は「じゃあ行くぞ」と言ってから、身体能力強化魔術を自分に使って走り出す。
清子は足を開いて、腰を落とす。
そして右手で剣の握り、左手で剣先を持って剣を頭上で構えた。
…多分剣を足場にしろってことだよな。
俺は清子の少し手前で踏み切って飛ぶ。
そして清子の剣の刃に飛び乗る。
すると清子が剣を押し上げた。
俺はそれに合わせてさらに飛ぶ。
そのお陰で、俺の身体は当初の想定よりも高く飛ぶ。
伸ばした両手が非常階段の4階の踊り場の足場を掴んだ。
俺は身体を一度後ろに振ってから3階の踊り場に飛び込む。
そして踊り場に両足で着地する。
なんとか飛び込むことはできた。だが、休んでなんていられない。
清子には後で礼を言おう。
そう思って屋上を目指す。
☆☆☆
屋上に出た俺は端まで行って下をのぞき込んで、戦場の様子を確認する。
戦場には煙が広がっている。
その煙はすぐに消えた。
まだ、天秤座の堕ち星は立っている。
……急がないといけない。
俺は少し後ろに下がりながら、左手をお腹の上で右から左へと移動させてギアを喚び出す。
同時に。次にリードギアに差して使うプレートを制服のブレザーの内ポケットから取り出して右手で持つ。
そして、いつもの手順で生成したプレートをギアに挿し込んで、構える。
「星鎧、生装」
その言葉と共に、ギア上部のボタンを押す。
するとギア中心部から山羊座が飛び出して、光が俺の身体を包みこむ。
光の中で俺は紺のアンダースーツと紺と黒の鎧を身に纏う。
そして光は晴れる。
さぁ、ここからが勝負だ。
俺は右手に持っているプレートに話しかける。
「ペルセウス。力を借ります」
「あぁ。始めようか」
俺が取り出しておいたのはペルセウス座のプレート。
作戦とは、まず俺が最前線で戦い、途中で離脱する。
天秤座の堕ち星には、離脱したと思わせる。
そして、天秤座の不意を突いてペルセウス座流星群を喰らわせる。
本来は俺が使える魔術を詠唱で威力を上げて喰らわせる予定だった。
だが、作戦会議の時にペルセウス座が「今の真聡君なら僕の力を使えるはずだ」と言ったため、流星群に変更となった。
……結局、ペルセウス座が俺の中の何がズレていると感じたのかはわからないままだ。
だが、今はそのズレが修正されたと考えていいのだろう。
俺はペルセウス座のプレートをリードギアに差し込む。
そして詠唱を始めようとしたとき。
誰かが非常階段を上がってきた。
気配を感じた俺は振り向く。
「で、次はどうするの」
そこには、さっき下で別れた清子が少し息を切らしながら立っていた。
驚いた俺は思わず「何でついてきた」と返す。
「質問に答えてくれる?」
確かに今は聞くだけ時間の無駄だ。後で聞けばいい。
「何度やるんだこのやり取り」と俺は少し呆れながら、簡単に清子に作戦を伝える。
「あいつらが稀平の気を引いてる。
そこに俺が流星群という術を詠唱して発動させて、強襲する」
しかし、清子はまた返事をしない。
今度は俺に近づいてきた。
そして、俺の前まで来て立ち止まった。
「何してるの。早く詠唱に入ったら?」
「…何で近付いてきた。離れとけよ」
「詠唱してる間に気が付かれたら困るでしょ。
私が陰星の存在を隠すから。早く」
どうやら、また協力してくれるらしい。
……それならそうと初めから言ってくれ。
そんなツッコミをしたくなる。
確かに、詠唱中に天秤座に気が付かれた場合は作戦が破綻する。
それは問題点として頭の中にあった。
その可能性を排除できるなら願ってもないことだ。
清子は既に詠唱準備に入っている。
……頼れる仲間が多いということは、ありがたいことだな。
俺も詠唱準備に入るために清子に背を向けて、戦場の方を向く。
「秘されし力を今、私達の存在を秘するために使用する。
誰であろうと、私達の存在を視ること、聴くこと、知ること、感じることを拒否する」
清子が認識阻害魔術を詠唱して使用した。
俺も杖を左手に生成して、右手でリードギアのボタンを押して起動させる。
「我、神秘の力の1つである星座の力に選ばれし者也。そして今、同じ星座の力を用いて人々に害を与える敵、澱みに塗れて堕ちた星と成った天秤の座、有り。
我、その敵に対して、力を行使して打ち破る。
そのために、我を選びし山羊の座と、我を認めしペルセウスの座の力を借り、流星群をここに再現する」
身体が回復していないらしい。
魔力回路が悲鳴を上げているのを感じる。
全身が痛む。
だが、今気にしてる場合ではない。
俺の周りに流星群の青い光を放つ星力が展開されていく。
そして俺は詠唱を止めて、展開した星力の塊を維持しながらビルの屋上の縁へ向けて歩き出す。
詠唱中に戦場から青い光が炸裂するのが見えたから気になっていた。
……志郎が遂に流星群を放ったのだろうか。
だが、今の状況は佑希、志郎、鈴保の3人が地面に伏している。
日和と由衣の姿はパッと見たところ見えない。
そして、天秤座はまだ立っている。
このままだと3人が危ない。
俺は流星群を放つために詠唱を再開する。
「人々が願いを、希望を託し、思いを馳せる流星群。
今その力を持って、人々に害を与える堕ちた星座と成りし天秤の座を打ち破る!
ペルセウス座流星群!」
言葉を紡ぎ終えると同時に、俺はビルの手すりを超えて空中へ踏み出す。
そして地上に向けて落ちながら、左手の杖を天秤座に向ける。
青い光を放つ星力が天秤座に向かって飛んでいく。
流石の天秤座も気が付けない攻撃に対処が遅れた。
流星群が天秤座を直撃する。
多量の神秘の力が地上に降り注ぎ、戦場にはまた煙が発生した。
俺は無詠唱の風魔術で無事に地面に降り立つ。
倒せたと願いたい。
だが、油断はできない。
俺は警戒を解かずに、構える。
煙はすぐに晴れた。
そして、天秤座は。
まだ立っている。
「流石真聡。さっきの人のと同じ力だけど、威力が違う。
流石に効いたよ」
「その割には、平気そうだな」
「僕は、止まっていられないからね!」
天秤座はその叫びと共に、大量の岩を生成して飛ばしてきた。
まだこんな力が残っているのか。
そう思いながらも、とりあえず避けるために走り出す。
飛んでくる岩を飛んで、転がって避ける。
流星群は当たった。
しかも2回。
それなのに、まだここまで動く。
どうすれば戦闘不能にできる?
そのとき、一本の矢が天秤座に向かって飛んできた。
天秤座はその矢を弾いた。
次の瞬間、無数の矢が上空から降り注ぐ。
それに合わせるように水弾も天秤座に向かって飛んでいく。
だが、天秤座の動きが止まる気配はない。
天秤座を止めるために考えていたもう一つの奥の手。
使うしかないみたいだ。
俺は矢が収まるタイミングで、天秤座との距離を詰める。
言葉を紡ぎながら。
「氷よ。世界に永遠を与える氷よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ堕ちた星と成り、人々に害を与えんとす天秤の座に、永遠の眠りを与えた給え。
例え、我が身をも凍らせようとも」
懐に潜り込んだ俺は、杖頭を天秤座に向けて構える。
杖頭と足の裏から詠唱氷魔術が、俺と天秤座を足と胸から凍らせていく。
天秤座は少し焦った声で「今度は自分ごと僕を凍らせる気?」と聞いてきた。
俺は「あぁ」とだけ返事する。
確かに自分ごと術に巻き込むのは普通じゃない。
だが、巻き込んだ方が効果も効率も上がる。
加減をせずに、全身から魔術を放てるのだから。
「……何で君は、そこまで自分を犠牲にするんだ」
「犠牲にする気なんてない。今回は、仲間を信じたうえでの動きだ」
その問答の間も氷魔術は発動している。
既にお互い、肩の高さまでは凍り始めている。
星鎧が消滅した。
それでも俺は、氷魔術の発動を止めない。
実際は天秤座を戦闘不能にできる確証なんてない。
それでも、今は仲間を信じるしかなかった。
後は頼むぞ、由衣。
その言葉は音になることはなく、俺の意識は暗転した。
Constellation Knight 〜私達の星春〜 Remi @remi12
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