第8話
「噂には聞いてたけど、王都ってのはものすごく広いんだな。今日は何かのお祭りか? 活気もすごいしあちこちで出店が……」
「はははっ、兄ちゃんは本当に田舎育ちなんだな。この人混みもどこまでも広がる市場も王都の日常だぜ。気になるなら人間以外の食材は何でも揃ってる酒場と、サキュバスが経営するムフフな店まで案内してやるぜ」
「スラッグにはそういうのいりませんからっ!」
そんな話をしながら通る大通りには本当に多くの人種が入り乱れていた。白い肌に黒い肌、長い耳に獣耳、リザードマンから妖精まで何でもアリだ。
その多くが本当に充実した毎日を送っているのだろう気配がすれ違うだけで分かる。
「うん、良い街だ……皆楽しそうに暮らしてる」
「おうとも! ささ……あの広場の東にそびえ立つのが我がサークル『ヘストファイ』だぜ!」
カストがそう口にしてみせたその店は、確かに立派なものだった。窓の数を見るに……十五階構造? 呆れた、どんな事を想定してこんなものをぶっ建てたのか……ああ、土地の関係かな?
上空の領域を管理できる者は天使族とホーク種しか居ないというのは俺でも知ってる通説だ。
「あの最上階に『ヘストファイ』の部長がいるのさ。一番偉い人だぜ?」
「一番偉いのに部長……? 社長の間違いじゃないのか?」
「だから、俺達はあくまで『サークル』なんだ。武具を打つのが好きな連中が集まった集団だと考えてもらっていい。それでこんなもんまで建っちまうんだから、すげえ世の中だよなあ……」
サークル……我慢しなければならない職場から離れて、好きな仕事を求めて集まったのがきっかけとされる組織だ。今では逆にサークルが社会を回しているという。
本当に……良い世界だ。好きな事をして足りない部分を補い合って生きていけるなら、それでいいじゃないか。
「ほら、中に入れよ。俺の名札があれば最上階まで上がれるぜ?」
「カストってもしかしてすごいのですか?」
「へっ、まあな。ま、見てろって」
そして、中に入ると意外にもそこには大量の冒険者が並んでいた。見るからに高級店なのに、どうして……?
「ここは見習い鍛冶師の売り場なんだ。ここじゃなくて外で店を開いてる部員もいるぜ。だけど、武器を買うならとりあえずここってくらいには認知されてんのさ」
「へえ……良いシステムだな。金のない冒険者と金のない鍛冶師見習いとの共存が出来てる」
「だからサークルが大事だって話だな。上階に行くにつれて質も良くなっている。兄ちゃんと嬢ちゃんには相応の武具を身につけてもらわねーとな。『ヘストファイ』製だって名札付けてな!」
そうして俺達は、『ヘストファイ』の最上階まで上がっていく事になったのだった。
◇
そして、そこには見るも美しい女性が佇んでいた。武具なんてなければ、タバコの匂いしかしないような……考えなくても分かる。彼女が部長なのだろう。
「珍しい武器をお持ちなんですって? 良ければ、見せてくれないかしら?」
そんな声に迎えられて、俺は隣で頭を下げているカストを睨むがチラリと見て「悪いな、お前さんの事売っちまった!」みたいな顔をしていた。
カストはやっぱりカスだったという、それだけの事だ。
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