第9話
「ふうん、確かに見たこともない素材であしらわれてる。私の知らない鉱石なんてなかったはずだけど……それに、本当にアナタ以外には持てないみたい。私くらいになると神器だって扱えるけれど、アナタが持っているのを鑑定するだけで精一杯だ」
ロナと名乗った『ヘストファイ』の部長はまじまじと俺のカタナを眺めてブツブツと続ける。
「刀身は無銘、こしらえは山金造波文蛭巻太刀拵。刀身は一二四センチ、オオダチという武器種。らせん状の柄が特徴……ふむ」
「えーと、ロナさん? あんた、このカタナについて知ってるのか?」
「言っただろう? 『鑑定』したんだ。口にして読んでみたものの、意味はさっぱり分からん。片刃の剣なんて何の意味があるんだ……? 興味深い。どうだ、そこのオリハルコンで試し切りをしてはみんか?」
「オリハルっ……!? そんなもんに傷付けたら白金貨何百枚の損失になるんだよ!?」
確かに武器の性能は知りたい所だけど……と戸惑っていると、ロナは俺を傷だらけのオリハルコン塊の元へ手を引いた。
「試し切り用のものだと言ったろう。なんなら真っ二つにしてくれて構わん。ま、傷一つでも付けられたらSクラスの切れ味だと推薦状を書いてやろう」
「言ったな……? 吐いた唾は飲み込めんぞ」
そういう話なら……と俺は水色に透き通っている金属塊に向かってカタナを構え、力の限り振り切った。
――――。
だが、後には何も変化が見られないオリハルコンがあった。
「スラッグ? 何も斬れてませんけど……」
「おいおい兄ちゃん。せっかく王都一の鍛冶師にアピールするチャンスなんだぜ。ふざけてんなよ」
二人はそう言うけど……確かに斬った感触はあったんだけどな……。
「へえ……ふうん。なるほどなるほど……ふ、ふふっ……こいつは本当に面白い剣だ!」
その中でロナはただ一人哄笑していた。ワケも分からないままに呆然としている俺達に向けて「分からないかい?」とオリハルコンの前まで歩く。
そしてトッと指で塊を叩くと……ガラガラ、とオリハルコン塊が粉々に砕け落ちた。
「なっ――!?」
「へっ!? ど、どういうことですか!?」
また二人は反応するが、俺の中では状況が逆。俺にだけ感じ取れる手応えは確かにあったのだ。
「つまりね、ただの一振りで全世界で三番目に硬いと云われるオリハルコンを完全に破壊してしまったんだ。これはもう斬撃じゃない……圧倒的な暴力を凝縮させ研ぎ澄ませた『破壊の権化』だ」
「おかしいとは思ってたんだ……魔物には頭を斬られたくらいじゃ平気で動く奴もいる。モノノケだってただの一撃で全身を破壊できるわけがない」
「そうだね。敢えて説明するなら、速すぎる斬撃が生む衝撃波のようなナニカが同時に発生しているのだろう。さてさて、どうしたものか……ただ傷を付けただけならSランクの格を付けられたのだけど、五世代以上使ってきたこのオリハルコン塊を破壊しきったとなると格付けなんかできないな」
ロナのそんな言葉にカストが「えーっ!?」と不満そうな声を上げた。
「俺はこいつらが王都でも食っていけるように部長に仕事を斡旋してもらおうと思って連れてきたんですよ? そりゃないっすよ、『ヘストファイ』の後ろ盾があればどうにかなると思って……」
何だ、そういうわけだったのか……カスとか言ってゴメン、と心中で謝っておいた。
「いやいや、これはもうそういう話じゃないんだよ。正直に言って、この力はこの私でも手に余る。『ヘストファイ』の全力を以てしても絶対に持て余す。だが、かといって冒険者にもなれないだろう。魔力を全く持たない人間は門前払いだ」
「じゃあ……俺には何もできないって話か?」
「いいや、違う。アナタなら何でもできるって話さ」
そして、ビシッと俺に指を突きつけてロナはこう言った。
「スラッグ、アナタは自分のサークルを作るべきだ」
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