第10話

「確かにアナタのカタナの切れ味は素晴らしい。それを扱う職業……『サムライ』も相当なものだろう。だが、魔力至上主義の冒険者界隈では通用しない。だから、アナタはアナタなりのやり方でのし上がっていく必要がある。そのためには、サークルの部長になるのが一番だ」


 ロナは僅かに目を伏せ、いたく言いづらそうに言葉を連ね……ようとして、踏みとどまったように口を結んだ。


 だから俺は、迷わずこう言った。


「俺みたいなのが王都で住むなら、いずれ浴びる洗礼なんだろ? なら、あんたの口から聞きたい。率直に聞かせてくれ。俺はこの街で暮らしていけるか?」

「……無理だろう。魔力も実績もないアナタに仕事を割り振る事ができるほど王都も余裕はない。アナタの強さは誰にも、完璧には伝わることはない。強くなる方法も、活躍すべき場所も、誰にも分からない……。だから、サークルを作るのは博打だ」


 上手くいけば俺は小さな王様に、最悪なら独りぼっちになるってわけか。なるほど……。


「でもさ、こう見えて俺にも付いてきてくれる人間はいるんだぜ。故郷から一緒に来てくれたツィーシャ、馬車で一緒だったくらいで一大サークルの部長に会わせてくれたカスト。あんただって今は俺のために頭を回してくれてる……」


 ああ、本当に……良い奴ばっかりじゃないか。俺は英雄になりたいわけじゃない。でっけえ事をやってのけるワクワクドキドキの人生を送りたいだけだ。


「だったら、もっと居るかもしれないだろ。こいつらみたいなお人好しが、俺の中の何かに触れて友達になってくれるかもしれない。もしかしたらサークルにだって入ってくれるかもしれない。そんなに絶望的なもんじゃないだろ。俺にはもうどうしても付いてきてくれる可愛い後輩がいる。そういう奴らを集めてけって話だろ? だったら、俺の未来は明るいさ」


 そう告げると、頭をぽんと誰かになでられた。ふと横を見ると、そこには微笑んだツィーシャが腕を上げていた。


「そうですよ。焦る事はありません。スラッグみたいな人を、皆は放っておきませんとも」

「ははっ、だろ?」


 ロナは生温かい目で俺達を見て、「なら大丈夫だろう」と返した。


「少しずつでいい。アナタの魂と同調してくれる人間を探すといい。それがきっと一番の力になるだろう」

「ああ。それに、仕事の当てがないわけじゃないんだ。ここの騎士団隊長と知り合ってね、そこから手が必要な仕事がないか聞いてみる」


 そう言うと、ロナはパチクリと目を瞬かせて聞き返してきた。


「騎士団の? 言っちゃ悪いが、実入りも少ないキツい雑用しか回ってこないと思うよ? それに、騎士団には堅物も多い。冒険者の謳う自由の方が好みじゃないのか?」

「実入りは少ないかもしれないけど、信用は得られる。俺は小市民でね、そういうコツコツと仕事を続けるのは苦じゃないんだ。堅物ってことは真面目ってことだろう。そんな奴らと一緒に居れば良い出会いもあるかもしれないじゃないか」

「……なるほど、それがアナタか。なら、それでいい。だけど、馬小屋暮らしをさせるわけにはいかないな。『ヘストファイ』から素材収穫の依頼を定期的に出そう。もちろん難度は高いが、そんな事は気にしないだろう?」


 それは助かる。確かにお金は持っておくに越したとは無いからな。


「世話になるな、ロナさん」

「いいよ、カストに無理矢理連れてこられたんだろ? それで良いモノを見せてくれた礼だ。何より、スラッグみたいな期待株に出会えたんだ……ああ、なるほど。アナタの言う出会いは、こういうものか」


 ロナは何かに気付いたようにまた笑い、「仕事ができたら振るから、ツィーシャの武器でも見繕ってやれ」と俺達を帰し、手元には値段も名前も空欄の紙が渡されていた。


「……この請求書、誰が持つんだ?」

「カストさんでは? この中で一番……というか唯一お金を持っているのはカストさんですから」

「だよなあ……まあ、しゃあねえ! これで俺の株も上がった事だろうしな!」


 カストはガッツポーズをして声を張った。まるでこいつらは自分の客だと言わんばかりに……実際にそうなんだけど。俺だけじゃどの鍛冶屋が良いかなんか分からなかったからな。


「な、なあ……これから武具を扱うなら、まず俺に声かけてくれねーか? 今からお前さんのサークルの専属武器商人として……な、な?」

「分かったよ。そうしよう。その代わり、ツィーシャにはとっておきのを頼むぞ」

「おうとも! 任せとけぃ!」


 まあ……こんな出会いも良いだろう。次は酒が美味い所でも案内してもらおうか。

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