第12話
「しかし仲間集めか……いきなりデカい問題になったな」
「そんなに大変ですか?」
「当たり前だ。幼馴染み二人さえ味方にできなかった俺だぞ。どこの誰が十年来の親友からも裏切られる男と組みたいと思う?」
「いつまで拗ねてるんですか? それに、私は今も一緒じゃないですか」
「拗ねてるんじゃない。客観的評価の話をしている。要はあれだ、これから俺は『僕はこんな事ができます。こういう事が得意でこれが苦手です。相性が良ければ死ぬまで一緒の相棒になりませんか?』とそこら辺を歩いている一般人に言わなきゃならないわけだ」
『少しばかり』怒りをを感じている俺の長々とした口上にも、ツィーシャはしっかり聞いてくれる。それに甘えてはいけないことくらい分かっているが……まあ、今はいい。
「どうも。取り込み中だったかしら?」
そんな話をしていると、騎士団隊長のグレースが部屋にやってきた。軍施設らしく殺風景な部屋に……それでも一番見栄えは良いらしいが……美人が来ると、それだけで華があるように感じる。
「いや、問題無い。それより悪いな、急におしかけてきて」
「話相手になってくれと頼んだのは私でしょう? かと言って、部下に仕事を任せちゃったから、すぐに戻らないと」
「……仕事を任せたならゆっくりできるんじゃないのか?」
「私個人の感情の問題よ。部下を信頼してないわけじゃないけれど……最近は街の中も外も物騒でね。いざという時、そう、部下が死にゆく時にお茶を飲んでいたなんてトラウマを持つのは嫌って話よ」
ああ、そりゃ確かに嫌だ……後悔を遺すと自分の価値が急転直下すると聞く。
「昔、俺の師匠も同じ事を言ってたな。枕元で呪ってくる同胞の魂を無視して眠れるようになったら一流じゃなく人でなしだってね」
「へえ、貴方の剣術はお師匠様から?」
「あれ……スラッグにそんな人、居ましたっけ?」
二人ともが違う方向へ驚くが、まあ話は単純だ。
「師匠には戦闘訓練のやり方を教えてもらったんだ。ただ木の棒をブンブン振り回してるだけじゃ剣の腕なんか上達しないだろ。だから、より確実に強くなるためにはどうすればいいのかを授けてもらった。それに、師匠はすぐに居なくなったしね、話すまでもないかなって」
「そんな一瞬の出来事で……師匠なんですか?」
「俺の強さを支えてくれてる一番大きな柱だ。それを教えてくれたなら師匠だろ」
どうせなら『どうすれば人に好かれるか』も教わっておくべきだったかな。
っと、話が脱線してしまった。時間がないなら単刀直入にいこう。
「グレース、騎士団から俺のサークルに入ってくれそうな奴はいないか?」
「あら、王都に来て早速サークル創設? 元気が良いわね……だけれど、残念ながら当てがないわね。騎士団に入るのって結構大変なのよ。厳しい訓練、厳しい修行、厳しい教育……」
「それ、全部同じ意味じゃないか?」
「そうかもしれないけれど、昔から騎士団はその三つを分けるみたいなのよね。何でかしら?」
俺に訊かれてもな……。
「じゃあ、俺達二人でもできそうな依頼を回してくれ。騎士団は楽が出来る、俺達は仕事ができる。こんな美味い話はないだろ?」
「そうねえ……実は、とっておきの依頼があるわ」
そう言って、グレースはまるであらかじめ用意してあったように羊皮紙を一枚机に置いた。
「未知の怪物……巨大な牙、剣でも魔法でも弾く皮膚、ドラゴンを食い物にしている……?」
魔物の食物連鎖から言って……ドラゴンは相当な上位種だ。それを食べる化物ってのは……。
「貴方にピッタリの依頼でしょう? 私達は化物に食われずにすむ、貴方は実績と莫大な報酬がもらえる。ね、美味しい話じゃない?」
「何だか、グレースのイメージが……」
「スラッグ、女の方って基本そんなものだと思いますよ。夢見ない方が幸せです」
まあいい。別に失敗して逃げ出しても責められる事じゃない。行くだけ行ってみてもいいだろう。
何と言っても……あのモノノケの力を使えた事が気になる。祢々切丸の言うことを信じるなら、そして未知の怪物がモノノケなら、俺はまた強くなれるって話になる。
俺としては先に討伐されてたならそれでいいし、手こずってるというのに見捨てるほど薄情でもない。なぜなら……今の所、モノノケにダメージを与えられたのは俺のカタナだけだからだ。
「そうね。正式に頼むわ……お願い、騎士を助けてあげて。時間も体力も、死さえも国に捧げるような人間ばかりなの。それなのに怪物の腹の中に、なんて……あんまりじゃない。ロレンスの力なら、きっと大きな助けになるわ」
「……分かった。引き受けよう。ただし、絶対に助けになれるなんて約束はしないぞ。果たせずモノノケに食われたら謝れもしないからな」
どうせ仕事はしなきゃいけないし、戦闘は望みところ。俺のサークルのアピールにもなるし、良いこと尽くめだ。
「それじゃ、俺はこれで。ツィーシャ、早速『ヘストファイ』の武具を使う時が来たみたいだぞ」
「そうみたいですね。ブラッドカット加工もしてもらいましたし、これを振るうのが楽しみです」
そう言ってツィーシャは双方に刃が付いた鎖を取り出した……何を隠そう、この鎖こそがツィーシャにとっては神器にも匹敵する武器だったのだ。
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