第28話 手に入れた証拠と……
裏手に回り込んで見れば、ラッキーな事に見張りと呼べる人間は一人だけだった。
裏門には欠伸をしている女のみ。
「側面の方には人が居ません。今なら静かに侵入可能です」
「よしっ」
人気の居ない裏の門でも、見張りを倒せばいつかは気づかれる。
その見張りに隙が出来ている今の内に入るしかないな。
俺達は人の居ない側面の塀目掛け、茂みから飛び出し、その勢いのままジャンプして塀の上に乗る。
これはオーラ訓練の成果だな。
「やはり内側にも見張りは居ません。今の内に屋敷の中へ」
オーラの応用で人の気配を広範囲に察知出来るコセルア。
塀の内側にも人が居ないという読みは完璧だった。
それでも何時までも居ない訳がない、さっさと扉を発見し、その鍵を指輪から取り出した道具でピッキングするコセルア。
「そういう事も出来るんだな」
「この手の技術は潜入捜査の基本ですので。……さあ開きました、お気を付けて下さい」
数秒で解除された扉の中へと入ると、そこは薄暗く人の気配を感じない通路だった。この時間は使われていないんだろう。
「あれほど大型の檻ですので、搬入出来るとは思えません。恐らく今も中庭にあるはず。そちらに人が集中している内に証拠を手に入れなければ」
こういう手合いはコセルアの方が数段上だ、その経験と勘を頼りに進む。
人の気配を察知しては隠れ、そして進む。
そろそろと階段を上った先、最上階の廊下の向こう、その扉から一人のふくよかな女が出て来た。
その女は派手な装飾のドレスを身に纏い、明らかにこの屋敷で一番偉い風体だ。
そいつが通路の反対側へと進み、角へ消えて行く。屋敷の構造から考えて向こうにも階段があるんだろう。
「今の女性には見覚えがあります。間違いなく、件の人物でしょう」
「ってことは、今出て来た部屋が執務室の可能性があるな。……行くか」
「ええ……」
周りに人が居ないのを確認しながら、その執務室へ。
途中に窓から見えた中庭の景色、そこには布の被った大型の檻があって、人だかりが出来ていた。
他にもいくつかの檻がある。小さいものから大きいものまで。
それがこの屋敷の人間だけならいいが……。
(派手な格好の連中がうようよいやがる。ご丁寧に全員マスクを着けてるとはな、悪趣味な金持ちってのは始末に負えねぇ)
だが、そっちはまだ早い。まずは証拠だ。
執務室の扉を開けたコセルアに続き、中へと入る。
灯りが消えても、趣味の悪い金ぴかな装飾が目立つな。それに、なんだこの匂い? えらく鼻につく。
だがそれに気をやっている暇はない。部屋の奥にある机を調べる。
「どうだ?」
「幸いにも鍵がかかっていません。ですが、何かしら罠が発動しないとも限りませんのでご注意を」
そう言いながらそっと引き出しを開けるコセルア。
開けた瞬間警戒し、すぐさまその場を離れる俺達。……十秒以上経って何も起きない。
警戒はしつつも、再びその引き出しへと近づいた。
「書類がいくつか、それに帳簿を発見致しました。……これはっ」
「何だ? 何かマズいもんでも……」
「そうですね。侯爵様から領地経営の一部を任されているはずですが……用途不明の記載があります」
コセルアは即座にその帳簿に書かれていた内容をスラスラと読む。
俺は彼女に近づき、何を書いてあるかを読み進めて見れば……。
(こいつはお袋に渡す上納金か。どういう事だ? 徴収した税金が一部別の所に使われてる。流石に使用用途までは……いや、こっちの書類か!)
ピンと来た俺は、別に見つけた書類の方に目を通す。
そこに掛かれていたのは、とある商団との取引についての契約書だ。
「カルソン商団か。取引内容は……魔物!? ビンゴだぜ、こいつは……!」
「やりました。これだけでも大々的に踏み込む材料と成り得ます。後はシラを切られないように現場を抑える事が出来れば文句なしですが……。しかし今日はここまでにするべきかと、何時までも中庭の檻に注目が集まっている訳ではありませんので」
「ああ分かってる。……取り敢えず撮れる分だけ写真撮るぞ」
カメラを取り出し、机に並べた証拠に向けてフラッシュを焚く。
密室とはいえ、あまり光らせたくは無いが仕方がない。
何時誰かが来るかも分からん状況で緊張はした。が、何とか全部取り終えた。
後は分からないように証拠を机の引き出しに戻して。……これで完了だ。
「さあ行きましょう。これを持ち帰ればきっと、侯爵様もお褒めになられるかと」
「お世辞はいいんだ。どう考えても叱られるだけだ」
「……余計な配慮でした、申し訳ございません。しかしながら、私も同罪ですので。坊ちゃま、その時は共に罰を受けましょう」
「ああ、仲良くな」
カメラを指輪の中に納め、いよいよ部屋の外へ。
外じゃ横領した金で楽しんでるんだろうよ。だが、それももう終わりだ。
恩を仇で返せばどうなるかってのを思い知らせてやる。
コセルアの後に続き、部屋から出ようとした時――不意に頭痛が走った。
「……っ」
それはほんの一瞬。強烈な痛みだったような、そんな曖昧さでしか表現出来ない程に直ぐに収まった。
「坊ちゃま、どうしましたか?」
俺が足を止めたのが気になったんだろう。コセルアが振り返って尋ねて来る。
「……いや、暗い所に居たからな。ちょっと外の光に眩んだだけだ」
「そうですか。ですがお気をつけを。敵地では何が起こるか――」
分からない。
きっとそう言おうとしたんだろう。だが、その声は外から聞こえて轟音の中で消されてしまった。
次の瞬間に聞こえてきたものは当然、割れんばかりの悲鳴だった。
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