第25話 見え始めた影
地下に閉じ込めている魔導士の女の情報について、やっと分かったらしい。
そんな事を騎士達が話しているのを偶然聞いた。
あの女からはもう大した情報は得られないから、どういう生活を送っていたかについて調べ、そっから少しでもお袋の領地に手を出そうとしてる連中についての手掛かりを騎士団は情報を集めていた。
「協会に所属していない為、時間が掛かってしまいました。がしかし、重要だと思われる情報として……あの人物は他領の冒険ギルドに出入りしていたそうです」
「ギルド?」
お袋への報告を済ませて執務室から出て来たコセルアを捕まえた俺は、悪いとは思ったが同じ事を喋らせた。
「しかし、それも身元を明かしての所属ではないようで……名を偽り、魔導士では無くサポーターとして登録されていました」
「用心深いな。ま、そんな人間だからあんな仕事やってんだろうが……。で? そこから何が分かったんだ?」
「聞き込みの結果、サポーターとして登録しているにも関わらず、パーティを組んでの活動はほぼしていなかった為に、人となりすら知っている人間がいませんでした。……流石にそれでは収穫が無いも同然ですので、さらに細かく聞き込みを行ったところ――彼女は決まってとある依頼を受けていたようです」
「依頼だ? ……まさか」
「恐らくお考えの通りかと。その依頼自体は何の変哲もない薬草等の採集でした。依頼人の名前はバラバラでしたが、魔法で幾つかの顔と名前を使い分けて依頼を行っていたと思われます。そしてその依頼人こそ……」
「うちのシマに手ェ出した黒幕。もしくはその関係者、か」
用意周到に喧嘩を吹っ掛けて来てるってのはこれで確定だな。
表向きの依頼はカモフラージュ、実際に会うのは毎回同じ人間って訳だ。
でもあの女曰く、顔は見た事無いらしいし、相手の開いたゲートを通って周りのよく分からない部屋で会っていた。とのこと。
自分の身元はキッチリ隠す割りに、あんな三下には熱心に会っていた。ってのは実は暇だから、な訳ねぇよな。
それだけ手間掛ける必要があった。蛇みてぇな執念の誰かさん。
男か女かも知らないって事は、声も魔法かなんかで変えていたんだろう。
背は小さめらしいって事は男の可能性が高いが、判断材料としちゃあ薄い。
背の小さい女なんて、それこそ町に行かなくても近場の村でぽつぽつとだが見るくらいだ。
「残念ながら、その依頼人の数名はここしばらくギルドに訪れていないようです。彼女が捕まったのを知り、身を隠したと思われます。……あれから時間も経っていますので、その領地周辺に居ない可能性も高いかと」
「それは仕方ねぇ。どうしたって今の俺達は後手に回るしかないんだ。今はそれだけ分かっただけでも儲けもんとでも思うしかねえな」
「痛み入ります。……しかしながら、一体どのような人物がこのような事をしているのでしょうか? 単なる恨みか、それとも利益があるのか……」
「さぁてな。だが、少なくともお袋を敵に回す程の奴ってこった。そんな大それた事が出来るなら、どう考えてもチンピラレベルじゃ収まらねえよな。色々と手回しだってしているはずだ。本人は来れないにしろ、怪しい人間を他人様のシマで動かせる。もしかしたら……」
「この侯爵領で手引きをしている人間がいる。その可能性がある、と?」
「あくまで可能性だがな。だが、身内の人間を抱き込めば……これ程動きやすくなるって事もねえ」
「……なるほど」
コセルアがそっと目を閉じた。何かを考えているようだが、一体何なんだ?
それもつかの間、直ぐに目を開いた。
「いえ、侯爵様とほぼ同じ事を仰ったので」
「お袋も俺と同じ事言ったのか? ……アンタ、もしかしなくても俺を試したな」
「申し訳ございません。坊ちゃまの推理が侯爵様と似ていると思ったので、つい。やはり親子、とでも言いましょうか」
「やれやれだぜ……。それってさ、喜べばいいのか?」
「少なくとも、あの方は喜ばれるかと……」
本当かねぇ。
あのクールなツラの上、言葉のキャッチボールが苦手なお袋が喜ぶ姿がいまいち思いつかない。
『貴方が私と同じ考えに至るなんて、普段から頭の体操をしている成果かしら? そんな姿、見た事はないけれど』
なんてくらいじゃないのか? なんせ偏屈だからな。
「まあいいさ。呼び止めて悪かったな」
「いえ、この程度」
「何時までも廊下で話してるもんじゃねぇし、解散って事で」
「分かりました。では、これにて失礼致します」
会釈をした後、廊下の向こうへ消えて行くコセルアを見送り、俺もその場から離れる。
元々、お袋の執務室近くなんて偶々通り掛かっただけだしな。こんな場所に用は無い。
「さてと……ん?」
不意に背後から視線を感じた。
振り返ると、執務室の扉を少し開けたお袋がジーッとこっちを見ていた。
「な、何だよ?」
「別に……。でも、こうして目が合ったのだから……何か言う事くらいはあるでしょう?」
「偶然目が合ったみたいな言い方しやがって……。あぁ……本日もお日柄がよく――」
「可愛げないわね。じゃあもう好きにしなさい」
そう言うと、扉を閉めて奥へと引っ込んでいった。
ほんとに何なんだよ、おい。
………………
………。
「……って事がここに来る途中にあった。一体お袋は何がしたかったんだか」
「う~ん、案外坊ちゃまとお喋りがしたかった、とか? もしくは自分の推理を聞いて欲しかった、とか?」
「まさか。……まあいいや、分からねえ事はいつまでも考えたって仕方ねぇしな」
元々の目的であるライベルとの待ち合わせ場所。
屋敷の一角にある談話室だ。
今日はそこで授業の真似事をする事になっていた。
今回に関しては俺達だけじゃない、ゼーカも来ている。
最近じゃすっかり屋敷の生活も慣れたみたいで、他の使用人からも大分可愛がられている。最年少だしな。
まだまだメイド見習い、覚える仕事は沢山あるが、あちこちと動いて周りから信頼を得たみてぇだな。その証拠にお菓子やら果物やら、いろんな物を貰うらしい。
「おうゼーカ、何だその絵本?」
「ジジューチョーからもらった。まずはこれ見て、知ってみるように、らしい」
「え!? 侍従長から貰ったの!? ……ぼくがあの人から貰うものなんてお叱りくらいなのに」
幼児向けに分かりやすくマナーについて描かれた絵本。
丸っこいキャラクターが、物語仕立てでマナーの大切さについて学んでいる様子描かれている。
しっかしライベルの奴、何勝手にショック受けてんだよ。お前がドジなんだから仕方ねぇだろ。
だが、あの厳しい侍従長も流石に子供相手には優しくなるか。
思えば、ゼーカが後ろを付いて回るところを何回か見たな。
「よかったな」
「ん、面白いぞ」
思えばこいつはあの事件の被害者。
まだ南部の森に行けないらしく、ゼーカが故郷に帰るのもしばらく掛かるようだ。
(ゼーカみたいに巻き込まれた人間が居るかもしれねぇんだ。……落とし前は必ずつけさせてやる)
だが、今は目の前の問題を片づけるとしようじゃねえか。
「おらとっとと立ち直れ」
「そんな事言われましても……もしかしてぼくって結構ダメな子なのかなぁって」
「全く……ゼーカからも活入れてやってくれ」
「……ライベル、情けない。ジジューチョーもよく言ってる」
「ゼーカちゃんまで!? ……ああ、ぼくもうダメだぁ」
やり過ぎたか? 余計に落ち込んじまったよ。
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