第3話 驚愕の事実
外へと出ると、これまたコスプレ女と同じ格好をした集団がいた。それも全員女。
なるほど、こいつらはそういうサークルか劇団なんだろう。
俺の隣を歩く女はそこの一員、もしかしたらリーダーなのかもしれないが……しかし派手にやりやがる。
こういうのをなんて言ったか? フラッシュモブ?
……そういう事か。これまでの流れは全部あの世に来た奴を歓迎するサプライズなんだ。
やっとわかったぜ。だから俺もよくわからない場所に監禁されていたって訳だ。ロープで縛られて無かった理由もこれでわかった。
(そう思うとあの二人には悪い事をした。……いや、きっとあっちもプロだ。俺みたいな反応には慣れてるはず)
これがあの世なりの歓迎ってか。この手の事は苦手なんだがな。
しかし、驚いたのは意外に空気が上手いって事だ。
あの世でもそういう感覚が味わえるとはな。って言っても俺は都会育ちだからこういう感覚事態が初めてなんだが。
緑に溢れる場所、振り返れば木造の古めかしい建物。今まで何人がこのサプライズを受けたんだろうか?
「お坊ちゃま! ご、ご無事で何よりです!」
「到着が遅れた事、どうかお許し下さい!」
コスプレ女の集団がそう声を掛けて来る。随分と芝居に熱が入ってるな。
しかし、俺は一体どういう役柄なんだ? お坊ちゃまって事は金持ちのボンボンって事なんだろうが、この反応……まるで失敗を許さないわがままな子供を相手してるみたいだぜ。
流石にそんなひでぇ役はやりたくねぇな……ここは一つ修正するか。
「ああ? んな事は気にすんな。取って食おうなんざ思っちゃいねぇよ」
「あ、ありがとうございます! まさかお坊ちゃまからそのような寛大なお言葉を掛けられるなど……!」
この女、かなりの演技派な上にアドリブにも強ぇな。
周りを見れば似たように驚いてる様子だった。こりゃあ相当腕のある連中のようだ。
やっぱサプライズに力入れてるだけあって実力派揃いって事か。
「さ、坊ちゃま。こちらの馬車にお乗り下さい。……さあ、お手をどうぞ」
俺と建物から出て来た女がいつの間にか馬車の前へと移動していた。
しかし馬車とは、初めてみるぜ。それも随分と豪勢に見える。
(金掛かってんな。こういうのってどっから金が出てんだ? あの世の税金か?)
やっぱ生まれ変わるまでは暮らすってなると、納めるもんが必要なんだろうな。
どこ行っても世知辛いのは変わりねえんだな。
「さあ、私の手を取って下さいませ」
俺に向かって手を差し出す女。やっぱ背が高いな。
思えばここにいる連中みんな俺より高いじゃねえか。これがあの世の平均サイズなのか? それともあえてそういう連中を集めて劇をやってるか。
……なんか癪だな。
俺は手を取らずにそのまま馬車へと入っていった。
「坊ちゃま……。それほど私に対して警戒をなさっているのですね。お労しい……」
この悲しそうな振り、ほんとに演技派だな。アドリブが上手い演者は大成するなんて聞くし、今度この連中の講演でも見に行くか。
そんな余裕があるのかは知らないが。……今はあの世の沙汰を受けに行くのが先決だな。
◇◇◇
「お、お帰りなさいませお坊ちゃま! ふ、再びお顔を見る事となって……その、う、嬉しい……です」
でけえ屋敷に通されたかと思うと、一人の小僧が俺の前へと立って挨拶していた。
小僧? ……いや、男のはずだ。本当にそうか? でも……。
いまいち自信が無いのは正直男に見えないからか。でも俺の勘が女じゃないと告げている。
……女に裏切られて死んだ影響か、どうやら妙なもんを身に着けてしまったらしい。
そいつが使用人? 侍従? どっちか分からないがそれらしい恰好をしている以上、そういう役柄なんだろう。
こんな子供も劇団員か。それもこの怯えよう、若いのに演技派だ。きっと大成するだろうな。
ここまでの事で、多分に俺はいじわるなボンボンという設定だという事が分かっている。
だが、その役柄は俺の好みじゃない。
「挨拶もそうそうに悪いが、俺はお前を知らないんだ」
「え? ぼ、ぼくの事を忘れたのですか? ……それに怒らないなんて」
やっぱ俺の役柄はこの手に人間をビビらせて楽しむタイプだったか。
気づいた人間はそれに乗って演じる。そうじゃない人間は困惑するままだろうが、それに合わせて対応するこの演技力。
(素人の俺にもわかる。やっぱこの連中、かなりのやり手だ)
目の前のこいつ、困らせるくらいの気持ちで言った俺の言葉にもあえて困惑する事で応えている。
これが即座に出来るなんて並みの腕じゃねえ。
流石にここまで来ると、俺も気分が良くなってくる。
その気にさせるなんて、流石あの世の歓迎ってところか。とんでもねえ力の入れようだ。
「ライベル君。気持ちは分かるが、何時までもそうしてないでお坊ちゃまを部屋まで案内して差し上げなさい」
「……あっ。申し訳ありませんコセルア卿! お、お坊ちゃま。では、お部屋まで案内させていただきます!」
俺の後ろに立つコスプレ女、コセルアって名前だったのか。思えば出会ってから名前聞いて無かったな。
ま、それも役名かも知れないんだよな。……あんまり覚えなくていいか。
「それではお坊ちゃま、私は今回の件の報告に行って参りますので」
そう言って、頭を下げた後にどっかに言った仮称コセルア。
俺は体を緊張させながら進む仮称ライベルの後をついて回って、案内された部屋へと通された。
「この部屋がお坊ちゃまの私室にございます。……あ、あの~」
「あ? ああ、サンキュー。お前も大変だな、いろいろ」
「はぁ……。あ、いや! 労いの言葉を頂けるなんて思いませんでした。では扉をお開けしますね」
「別にそこまで……ってもう開いてるし」
困惑する表情がまるで本当に不思議がってるように見える。
そんな事を考えてるうちに開かれた扉をくぐって行く。
すると。
「なんだこりゃ? 随分とまあ……豪勢と言うか、悪趣味と言うか」
「ですが、その、お坊ちゃまが好みに合わせた部屋ですので。……本当に覚えていらっしゃらないんですね」
通された部屋は、なんというか目に痛い煌びやかさというか。
言ってしまえば成金趣味丸出しの悪趣味全開だった。
壁紙や天井、絨毯やら、とにかくあらゆる物に金がかかっている。金ピカって感じが落ち着かない。
本当マジどういう道楽息子の設定なんだよ。
「坊ちゃまはこういう派手なのがお好きだったんです」
「……ああそう。もうツッコむ気力もねぇや」
「それと、そのお着換えなさった方がよろしいかと……。汚れが目立ちますし、お坊ちゃまは一日に何度も服を変える趣味も持ち合わせていましたよ」
マジかよ。ロクでもねえ設定を押し付けてくるなおい。
もしかしてこいつら、こっちの対応力ってのも試してるんじゃねえのか?
体験型のアトラクション的な。
しかし服ねぇ。
そう言われて、改めて自分の着させられた服を見る。よく見ると確かに嫌味な金持ち臭が漂う派手な格好だ。なんだこの色遣い? 理解出来ない感性だぜ。
「髪の毛も乱れていますし、あちらの鏡で確認なさいますか?」
指差す方向には姿見があった。この際だ、全身がどうなってるのか見て見るか。
そう思ってなんのけなしに鏡をのぞき込んだ時だ。
「…………は?」
そこには――俺と似ても似つかない顔つきの男が居た。
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