第6話 文通。

「先生! 大学、合格してました!」

 満面の笑顔で。

「私、先生の後輩になります!」

 坂城は目をを丸くして、それから理解して少し淋しく笑った。


「東京、行くんだ?」

 坂城の出身大学は東京にあった。


 小夜は嬉しそうに笑う。

「はい。……これからも、手紙、書いてもいいですか。またここに帰ってきた時は遊びに行ってもいいですか。先生のこと、……好きでいてもいいですか」

 うっかりこぼれた小夜の心情と共に、ぽろぽろと涙が小夜の頬を伝った。


 坂城はそっと、小夜を抱き寄せた。

「ありがとう。僕も、君のことが好きだ」



 小夜に、告げようと思っていたこと。

「君といたこの半年が、宝物のように輝いていて……大切な日々をくれてありがとう」

 年の離れた自分なんかが、恋情を抱くなど不味いのではと自制したこともあった。だけど、小夜と過ごした時間は坂城にとって、何物にも変え難い大切な時間になっていた。



 それから、小夜が大学で学ぶ間、二人は世間には秘密の文通を続けた。

 小夜の帰省時や、時には坂城が東京にやってきて、穏やかな逢瀬を重ねた。


 いくつかのすれ違いや恋のライバルの登場などがあったが、ひとつひとつ、二人は丁寧に対応して、穏やかな関係を続けていた。

 そうして四年の月日が流れた。



 その日、坂城は先日上梓した一冊の本の見本を持っていた。

 少し緊張して息が浅くなる。

 月夜が表紙に描かれたその本は、ひとりの少女の成長と恋を描いた青春小説だった。

 待ち合わせにしたのはあの図書館の前。


「先生!」


 すっかりあかぬけて、都会の綺麗な女性になった小夜が駆けてくる。

 坂城は眩しそうに微笑んだ。

「小夜さん。おかえりなさい」

「ただいま、戻りました」

 へへ、と小夜が笑った。


「これ」


 坂城は本を差し出す。

「あ、新作ですね!」

 無邪気に喜んで小夜は受け取る。



「……君を、想って書きました」



 小夜が目をぱちくりと瞬いた。坂城ははにかみながら小夜を見つめて言った。


「小夜さん。僕と、結婚してください」


 小夜の目に涙が盛り上がる。

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、小夜は笑って頷いた。

「はい。……先生、私、この町の図書館で働くことになったんです。これからは、ずっと一緒にいてください」

 坂城は小夜を抱きしめた。



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先生。 森猫この葉 @z54ikia

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