第5話 その後の日々。
その後も、二人の文通は続いた。
紅葉を二人で見た帰り、小夜は坂城の自宅を訪れた。まるで私設図書館のような書庫があり、小夜はとても興奮してしまった。
「先生、またきていいですか」
「小夜さんならいつでも。お待ちしていますよ。締切などによってはお相手できないかもしれませんが」
「絶対に先生の邪魔しないようにします!」
二人は連絡ノートを作った。そこに小夜が坂城から借りた本を記録したり、最近読んだ本や、その感想などを書いて、時間がある時に坂城がそれに返信していったりした。
小夜が受験に集中した三年の秋から春は手紙こそ途切れたが、勉強の合間の息継ぎのように小夜は坂城の屋敷を訪れた。
ある寒い日の夜、眠れなくてふらふらと坂城の家にきてしまった小夜は、執筆を終えて庭に出てきた坂城と遭遇した。
「あ……。先生」
「小夜さん。どうしたんですか、こんな時間に」
小夜はふうとため息をついた。
「眠れないので散歩してました。なんか、何もかもが不安になってしまって」
小夜の握りしめた拳が小さく震えていた。
「少し、ドライブに行きませんか」
坂城が誘う。
二人は車に乗り、山道を登っていった。
「今日の天気だと、もしかしたら見えるかと思って」
見晴らしのいい高台に着く。あたりは真っ暗な静寂に包まれていた。
「そろそろですよ」
空が白くなってくる。
夜明けの、日が昇る。
そこには一面の雲海が広がっていた。
雲の海が、朝焼けに染まる。
「わあ……っ!」
壮大な景色に小夜は息を呑んだ。
「たまに、ここに来るんです。煮詰まっだ時とか。自然の力が、僕を癒してくれるのを感じてまた頑張れるんですよ」
坂城は微笑んだ。
「ありがとうございます。先生」
小夜も、目尻の涙を拭いて微笑んだ。
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