出来る子ども

もも

出来る子ども

 僕は出来ない子どもでした。頭の悪さから「これぐらい、言わなくてもわかるでしょ」とよく母に𠮟られたものです。

 母は僕を注意する時、隣に住むT君の名前を出しました。僕と同じ年のT君は頭が良くて、学校でも先生のお気に入りの存在です。「T君を見習いなさい」と、母に何度も言われました。

 だから僕は母の言う通り、T君をお手本にすることにしたのです。T君のことをじっと見ていたら、自分に足りない部分が少しずつ見えてきました。怖がらないこと。時には思い切り良く、大胆に行動すること。自信を持つこと。T君はとても努力家だったことを知り、僕はもっと頑張らないといけないと思いました。それからはT君の全てを真似しました。勉強や運動はもちろん、授業中の姿勢、食べる時の咀嚼の回数、歩幅の大きさなど徹底的に揃えてみたら、不思議なことに出来ることが増え、なんだか自分がT君になれたような気がしました。そんな僕のことを、母はたくさん褒めてくれました。更に「T君よりもうちの子は出来るんじゃない?」と父に話しているのを聞いた時、僕に期待を寄せてくれているんだと、とても嬉しい気持ちになりました。

 T君の真似をすることが当たり前になっていたある日、T君がテレビに出ました。街中で包丁を振り回して知らない人が3人亡くなった上、家ではT君のお母さんが全身を刺されて重傷を負っているのが発見されたそうです。 

 だから僕はT君を見習って台所から包丁を抜き取り、買い物から帰って来た母を玄関で刺しました。T君がしたように、身体中をくまなく刺しました。最初はうるさかった声も段々聞こえなくなり、完全に動かなくなりました。

 僕は今から外へ出て、4人以上にこの包丁を突き立てる予定です。これがクリア出来たら、僕はT君よりも出来る子どもであることが証明されます。その時にはまた、いっぱい褒めてください。お母さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出来る子ども もも @momorita1467

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画