第6話 4月1日 実況と解説ー6

 「では、18時を回り、精鋭の移動など少し動きが出てまいりましたので、観客の皆様へご案内です。 

 これより、カジノ内スローターゲームBettコーナーにてベッティングカードの販売開始となります。販売場所や購入方法は、フレキシブルディスプレイにある、ホテルアプリ内のカジノボタンをタップするとご確認いただけます。ベッティングカードは単勝のみの販売で、一口100円からご購入いただけます。ご希望の方はカジノ内Bettコーナーまでお越しください。ご購入の制限時間はこれより2時間となります。混雑が予想されます。早めのご購入をお勧めいたします。なお、インターネット販売はしておりませんのでご了承をお願いいたします。

 さぁ!!奪衣婆様!!毎度恒例のBettタイムです。

 毎度の事ながら、単勝販売しかありませんので、当たれば大きいですが、外すと痛いですね。賭け金の額によっては人生が破綻する場合もあるくらい、毎回、大きなお金が動く瞬間です。賭けるからには儲けたいですよねぇ〜」


 「そうですね。毎回、大会を開催するにあたり、世界中の神々が観戦のためにお越しになられます。神といえば聞こえはいいですが、神もストレスが多く、苦労が多いのですよ。賭け事でもしてパーっとストレス発散して遊んでいってもらいたいものです」


 「奪衣婆様……。神様って、ストレスあるんですか? イメージが湧かないですけど」


 「何言ってるんですか!? キヨさん!!神をそんなに軽く考えていたのですか? 神こそ、気苦労の多い職業なのですよ」


 「神様って……、職業だったんですね……」


 「そうですよ。神は立派な職業です。神だって、神として生まれたはいいけど、神選抜試験に合格しないと野良神のままで正式な神にはなれないのですから」


 「神様って生まれた時から正式な神様ではないんですか?」


 「神は誕生した時から神ではありますが、天界が認める神になるためには、選抜試験に合格しなければなりません。選抜試験を受けない神や受けても不合格となった神は野良神として、その日暮しの放浪生活を送る事になります」


 「へぇ〜。そういう神事情があるんですね」


 「キヨさんは、神が生まれる理由をご存知ですか?」


 「神が生まれる理由……。分かりません。神様って気付いたらいるものではないのですか?」


 「まぁ……、一般的な人間たちにとって、神とは、”気付いたら居るもの”という具合ですよね?

でも、神とは気付いたらいるモノではないのですよ」

 

 「へぇ…、誰か産むものなんですか?生き物みたいに」


 「おっ!!キヨさん、いきなり核心を突きますね。正解です。神は誰かが産むものなのですよ。誰が産むと思いますか?」


 「神の創造主……、神の創造主って……、神話を紐解くと神じゃありませんでした?」


 「神話ね……。神話自体がね……、アレですからね……」


「アレ……?」


 「キヨさんは、神話を作り出したのは誰だと思いますか?」


 「……。

 あっ……」


 「気が付きましたか?キヨさん。神とは誰が産むと思います?」


 「に……、人間です……。多分……」


 「はい。正解です。キヨさん、よくできました。神を産むのは人間です。

 人間は神頼みをするでしょう? 何か困った事があるから神頼みをして、どうにか状況が好転するように、と願うわけですよね。その願いが神を産みます。

 要するに、人間の願いで産まれてくるのが神です。これが神が生まれる理由です」


 「なるほど……。願うから生まれるわけですね」


 「”願い”と言えば、聞こえはいいですが、実際は”欲”なのですよ。

 人間は、神を自分たちの都合のいいように美化したり、卑下したりします。

 人間は自分の思うようにならないと神を崇めようともしません。

 神は人間が求める姿を維持しなくてはなりません。

 キヨさんは、人間が求める神の姿、とはどのような姿だと思いますか?」


 「人間が求める神の姿ですか……。そうですね……。

 少なくとも、私が求める神の姿は、美しく、強く、厳しく、煌々と輝いている、という具合でしょうか?」


 「キヨさんは、容姿の醜い神だったり、困り顔や嫌顔をする神はどう思われますか?愚痴の多い神とか、皮肉屋の神とか」


 「うーん……。イメージだけで神様を語ると……、貧乏神様とか人間界でのイメージは悪いですよね。神様も色々いらっしゃいますから、どんな性格の神様がいてもおかしくないと思いますが……。イメージの良くない貧乏神様でも、実際は結構イケメンで柔和な方で素敵ですよね……。でも、貧乏神様と交際すると漏れなく金銭的に困窮するからなぁ……。ソレは嫌ですけど……。う〜ん……。やっぱり、私の個人的な希望では、少なからず、神という役職を背負っているのであれば品行方正を望みます。愚痴とか皮肉とか言わないでほしい……、っていう期待もありますね」

 

 「キヨさんがそう思うって事は、人間も似たような事を思っているのではないでしょうか。

 例えば、〈神様!僕をお金持ちにしてください〉って神に願ったとしますよね。でも神が〈えぇ……、面倒臭い。自分で頑張りなよ〉とか〈そんな力は私にはないよ〉とか〈あぁ〜無理無理、他当たって〉なんて言ったら……。なんだか、ガッカリするでしょう? 」


 「はい……。頭では、色んな神様がいて当然なのは分かってるんですが、なんだか、期待外れで拍子抜けします……」


 「人間という生き物は、自分が期待を寄せる相手が、自分の期待通りに動かないと自分勝手にガッカリしてしまう生き物なんです。だからいつも、神は、ただただ普遍的に後光(ごこう)を指して煌々と輝いていないといけませんし、神の中には、メラメラと火焔光(かえんこう)を背負っていないといけない神もいます。

 普通に考えると、その光は何目的なの!?炎熱くない!?って思うでしょう?

 それでもクールな顔して、神職を全うしなければならないんですよ。

 神だって、うんざり顔や困った顔をしたい時だってあるのに、人間はそれを許しません。 神はいつだって、人間の期待通りの神でいなければなりません。やれ満願成就だ、やれ健康祈願だ……、合格祈願、恋愛成就、商売繁盛、家内安全、子宝祈願に安産祈願……、人間たちの欲という欲を一身に受けて、成就したら感謝され、成就しなかったら罵られ……、いちいち人間の感情に振り回されて大変なのが神です」


 「そうなんですね……。でも、神様って人間からお賽銭もらえるじゃないですか? 人間の願いって、基本、神様に頼んだからといって成就される事はなく、自分の行いの結果ですよね。考えようによっては、ただ、願いをヒアリングしてあげるだけでお賽銭もらえるんですよ。私は楽に儲けていいような気がしますけど……」


 「キヨさん……、それ本気で言ってるんですか?

 神の収入源といえばお賽銭ですが、考えても見てください。

 大体、一般人だとお賽銭の金額なんて、一人頭10円くらいなもんでしょう? 中には”ご縁があるように5円” って、妙なこじつけをして一般的な金額から5円もディスカウントする輩もいるのですよ。たまに正月に奮発してくれる人間がいるとしても、神の収入なんて高が知れているわけです。たった10円で〈健康第一、商売繁盛、家内安全をお願いします〉、と神に頼み込んでいるわけです。自身の人生の死活問題をたった10円でなんとかなると思っているのですよ。人間とはなんと強欲なことか……。

 人間という生き物は、勝手に神を産みとしておいて、物事を自分の都合のいいように捉えている。勝手に産み落とされた事で、天界に行き正式な神になるために厳しい選抜試験まで受けて一人前の神にならないと、野良神として天界から揶揄され、惨めな思いをしながら放浪生活をしなければならなくなるのです。神だって、ストレスは溜まりますし、ストレス発散をしたい!!と考えている神も多いはずです。神はいつだって必死です。神という存在を楽して稼いでいる……なんて、軽く考えないでいただきたい、と私は思います」


 「しかし、奪衣婆様。例えば、一人頭10円のお賽銭を100万人が賽銭箱に入れたら、結構な大金になりませんか?」


 「キヨさん、甘いですね。例えば、人間という生き物は、〈商売繁盛お願いします〉と10円を賽銭箱に入れて祈願した時点で、神様の後ろ盾を得たように思い込んで、何百万円単位の成果を上げる輩もいるのですよ。現に巷の社長連中は賽銭箱に大体、1万円〜10万円の賽銭を入れるでしょう? 彼らからしたら、端金で大金を稼げる気力を神からいただく事ができるのですよ。得た気力で何千、何億の利益を叩き出しているのです。それに比べたら……、神が得る利益なんて安いものですよ」


 「なるほど。神も賽銭で高収入を得ているように感じますが、人間が稼ぎ出す金額に比べれば、微々たるものなんですね……」


 「そうですよ。キヨさん。それに、実際に神に奉納されている金銭はもっとシビアです」


 「どういう事ですか?」


 「キヨさんは、お賽銭って……、どこに行くと思いますか?」


 「神に奉納されるのではありませんか?」


 「うん……。それは建前ですね。

 キヨさんは、山奥の祠や神社の池なんかで、何十年も手付かずの賽銭で銅銭が緑色になって腐食していたり、アルミがくすんだ色になっているのを見た事がありますか?」


 「あぁぁ!!見たことあります。何十年もそのままになっていて、全く回収する気配のないお賽銭でしょう?」


 「大体、神が得るお賽銭はそういう放置されたお賽銭だけで、賽銭箱にしっかり入れられて管理されたお賽銭は、実際のところ、神社の運営・維持に回されます。結局は、人間が使うのですよ」


 「なるほど……、神が得られるお金なんて、微々たるものなんですね。でも、賽銭箱の賽銭で神の住まいになる神社を綺麗に管理してもらったりできるのではありませんか?」


 「キヨさんのいう通り、そういうメリットもありますね。ですが、実際の神の住まいは天界であり、下界にある神社は人間が勝手に神を奉るために建てた物です。もちろん、せっかく建ててもらったのだから別荘として使っている神もいますよ。ですが、建立されたはいいものの、行った事がない神もいるわけです。中には、自分の別荘が勝手に建てられて怒っている神や、別荘自体が建てられた事を知らない神もいるのですよ」


 「なるほど。人間が勝手に建立しちゃってるわけですか……」


 「そういうわけですから、ストレスを抱えている神もいれば、迷惑を被っている神もいるわけです」


 「でも、奪衣婆様……。別荘を建ててもらって嬉しい神もいるわけですよね? 賽銭で得る利益は少ないかもしれませんが、お供物なんかもいただけるわけですし」


 「中にはそういう神もいるでしょうね。人間に感謝をしている神も少なからずいるとは思います。しかし、お供物も実際には神が食べるためには、腐って原型がなくなるまで放置しておいてもらわないといけないわけです。

 人間は、お供物を供えても腐るまで放置している事はないでしょう? 大半の人間が〈もったいない〉ってお供物を食べちゃいますよね……」


「確かに……。食べますね……」


 「でしょ? 久しぶりに田舎の祖母宅に行くと婆ちゃんがおもむろに消えたかと思ったら、仏壇や神棚から何やら持ってきて、〈ほれ、これ食わんか!〉って、うっすら水分が抜けてモソモソする饅頭をくれたりするでしょう?」


 「くれますね……。いつから神棚にある饅頭なの……、って聞きたくなるやつですね……」


 「神は、”誰も手をつけないもの” しかいただく事ができません。

 集めた賽銭は使ってしまう。お供物は食べてしまう。しかも、神は自分の方から人間に〈僕はフィナンシェが好きだからフィナンシェくれ!〉なんて事は言いません。もし神がそのように思っていても、人間は感じ取る事が出来ません。お供物を供えてくれたとしても、人間が勝手にモノを選んでお供えするので、それが神の好物かどうかも分からないわけです。フィナンシェ好きな神からしてみたら、塩豆大福をもらっても嬉しくないわけです」


 「塩豆大福美味しいですよ。甘じょっぱさが、クセになります♪」


 「塩豆大福も許容範囲な神なら、〈まぁ、フィナンシェじゃないけどいいか……〉となるかもしれませんが、〈和菓子嫌い!!大福!!あんこ!!この世から消えろ!!〉と思っている神からしてみたら、欲しくもないものを押し付けがましく供えられるのは苦痛でしかありません。それに、神は人間が望まないのに自分の方から〈頼まれてないけど、何か願いを叶えてやろうか?〉なんて事も言いません。なぜなら、人間とは、都合のいい時にしか神頼みをしない生き物だからです。人間は、頼みもしない事をする存在を ”ありがた迷惑” と捉える傾向にあります。こちらが好意でやっている事でも、本人が欲しなければ ”迷惑” に感じてしまうのが人間なのです。ですので、大半の神が人間が願い事をする度に、半ば強制的に召喚されています。

 神はそれでも、無条件に人間を受容しなければならないのです。そう考えると、ストレス溜め込んでいる神は多いと思いますよ」


 「なるほど。なんだか、神が可哀想になってきました……。今大会で、心ゆくまで楽しんでストレス発散していただきたいです」


 「さぁ!!あまたの神々よ!!常日頃、ご苦労様でございます!!さぁさぁ!!Bett!!Bett!!Bett!!このスローターゲーム!!心ゆくまで、存分にお楽しみください!!」


 「はい。奪衣婆様のスピーチに神々からの大歓声をいただいたところで、時刻は19時を回っております。

 私は個人的に神様選抜試験がどんな内容なのか、野良神が普段何をしているのか等々、色々と知りたいですが……、話が長くなりそうなので、それはまた別の機会にお伺いする事にいたします」

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