第13話 4月2日 実況と解説ー13

 「清川の行方も気になりますが、時刻は20時15分。たった今、渡辺が車で移動を始めた、という情報が入りました。

 廃工場奥駐車場の車内に潜伏していた渡辺が、車移動を始めたようです。

 巨大三面照魔鏡の映像は、渡辺の動向に切り替わっています。

 これは……。どの方向に向かっているのでしょうか。

 駐車場を出て、工場地帯を抜け、道を左折しました。左折した方向は、公民館方面ですが、その先には住宅街もありますし、商店街も近いです。

 一体、渡辺はどこに向かっているのでしょうか。

 ……。

 ……。

 繰り返しお伝えいたします。

 工場地帯駐車場奥の放置車両内に潜んでいた渡辺ですが、現在、車で公民館方面に爆走中です。

 ……。

 ……。

 今、公民館前を通過しましたね……。渡辺は公民館前を通過し、商店街方面へ進んでいます。

 わりと車の走行スピードが速いようですが、計測できますか?

 今、追跡中の八咫烏カメラで走行スピードを計測しています。

 ……。

 走行スピードは、80キロ。

 渡辺は、50キロ制限の一般道を80キロで走行しています。奪衣婆様、これは危険運転に該当しますね。どう思われますか?」

 

 「非常に危険な運転ですね……。住人を巻き込まなければいいですけどね……」


 「そうですね。住人を巻き込んで死亡させると即失格です。

 渡辺の運転する車は、かなりのスピードを出して、商店街方面へ走行中です」


 「ところで、この車は窃盗車両でしょうか?」

 

 「確かに、そうですね。割と新しめの淡い黄色の軽車両です。可愛いですね。私も車に乗るなら、こういう可愛い車がいいです♪」


 「確かに、こういう可愛い車はキヨさんに似合いそうですね」


 「私、永遠の16歳なんで、車の免許取れないんですよね……」


 「そうでしたね。車移動するにも朧車(おぼろぐるま)タクシーを呼ぶしかできないですね。16歳ならバイクの免許は取れるのではありませんか?」


 「バイクはかっこいいですけど……、可愛くはないですよね……」


 「バイクをピンク色にしたり、キラキラしたラテアートリボンを前方のライトやハンドルにデコレーションしているキヨさんの姿は想像できますけどね」


 「キラキラのラテアートリボンって……、奪衣婆様……、そのデコ……、ちょっと古くありませんか?」

  

 「古い……? そうなの?……。古いか……」


 「今時、バイクをデコってるバイカーもなかなか見ないですよ……」


 「そう……?」


 「そうですよ。奪衣婆様……。それって、トラックをデコってた時代とかぶってるでしょう?」


 「私、デコトラも結構好きでしたけどね」


 「奪衣婆様……。いつの時代の話をしてるですか……。デコトラとか……、化石ですよ……」


 「えっ?……。化石……」


 「そんな事より、現在、渡辺が逃走に使っている黄色の軽車両の話ですよ。潜伏していた放置車両でもないようですし、この車はどこから調達してきたのでしょうか?

 ……。

 ……。

 はい、はい……。はい、分かりました。

 カメラ室から情報が入りました。

 渡辺が乗っているのは盗難車両で間違いないようです。

 当初、渡辺は工場地帯奥駐車場にあった放置車両の扉をこじ開け中に潜伏しておりましたが、放置車両から出て一台の軽自動車に乗り込んだようです。

 この軽自動車は、工場の従業員と思わしき若い女性が乗ってきた車のようで、女性はエンジンをかけたまま、車を一時的に放置して、工場内へ入ったようです」


 「渡辺はその隙をついて、軽自動車を盗んだわけですね」


 「そのようです。盗難車両という事になりますので、今頃は、工場地帯奥の駐車場に警察が出動しているかもしれませんね。

 不死鳥カメラさん。渡辺が潜伏していた駐車場の映像出せますか?

 ……。

 ……。

 あ……、不死鳥カメラからの映像が来ました。

 うーん。特に工場地帯奥駐車場では動きはないようですね……」


 「まだ、車の持ち主も盗難に気づいていないのかもしれませんね……」


 「でもですよ、奪衣婆様。持ち主は車にエンジンをかけたまま放置をしたわけですから、すぐに戻ってくるつもりだったのではないでしょうか。さすがにまだ、盗難に気づいていない、というのはいささかおかしい気もしますけど……」

 

 「確かにそうですね……」


 「盗難時の映像をリプレイしてみますか?」


 「そうですね。リプレイしてみましょう」


 「では、カメラ室に連絡して、盗難時の映像をリプレイしてみましょう。しばし、お待ちください。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 はい……、盗難時の映像が届きました。

 ……。

 ……。

 淡い黄色の可愛い軽自動車が駐車場内に入ってきます」


 「いかにも、若い女性が好みそうな可愛らしい軽自動車ですね」


 「はい。軽自動車は、駐車場内を徐行すると工場の建物の入り口付近へゆっくりと停車しました。

 運転席から髪の毛の長いポニーテールの細身の女性が降りてきました。年齢は若いようですね。

 エンジンはかかったままです。

 あれ……。女性が渡辺が潜む放置車両の方へ歩いて行きますよ……」


 「ん??……、なんでしょうね……」

 

 「女性が渡辺の潜む放置車両に近づいています。

 ……。

 ……。

 放置車両の窓ガラスをノックしてますね……。

 知り合いなのでしょうか……」


 「いやぁ……、ここは幻夢の町ですからね。地獄から突然降り立った渡辺に知り合いはいない、と思いますよ」


 「そうですよね……。誰なのでしょうか?……」


 「渡辺を知っているか、もしくは、たまたま、ここに潜伏していた渡辺に気づいたか……、という具合でしょうか……」


 「奪衣婆様……。これは……、どういう状況でしょうか……。謎ですね……」

  

 「うん……。謎です……」


 「女性は渡辺に向かって何かを言っているようです……。

 あっ!!、軽自動車を指さしましたよ」


 「指さしましたね。明らかに今、軽自動車を指さしました」


 「なんだか、軽自動車に乗っていいよ、と言っているような雰囲気ですね」


 「そうですね……」


 「女性が渡辺の潜伏する放置車両から立ち去ります。エンジンをかけたままの軽自動車の横を通り、工場入り口から建物内に入って行きました。

 ……。

 あっ……、放置車両から渡辺が出てきましたよ」

 

 「出てきましたね……」


 「そして……、周囲をキョロキョロと確認するような素振りをしながら、軽自動車に乗り込みました」


 「乗り込みましたね……」


 「あ……、軽自動車が動き始めます……。

 ……。

 駐車場から出て行きました……」


 「出て行きましたね……」


「……。

 ……。

 奪衣婆様……。これは……、窃盗ですか?

 私には、女性が手引きをしたように見えましたが……」


 「手引きをしたように見えましたね……」


 「女性が手引きをしたのであれば、今現在、駐車場に警察もなく、何の騒ぎも起こっていない様子に納得です」


 「そうですね……」


 「奪衣婆様。もう一回見てみますか?」


 「そうですね。もう一回、みてみましょう」


 「……。……。……。……。……」


 「……。……。……。……。……」

 

 「奪衣婆様……。やっぱり、私には女性が手引きしているように見えます……」


 「そうですね。手引きしているように私も見えました……。

 うーん……。ちょっと、カメラ室に頼んでこの女性が誰なのか洗い出してもらいたいですね……」


 「そうですね。非常に気になるので、カメラ室に女性の洗い出しをお願いしましょう。

 ……。

 ……。

 しかし、驚きました……。渡辺は自分を助けてくれるような存在といつ出会ったのでしょうか?」


 「うーん…。当初、渡辺は森にいて、神社にいて、工場地帯の駐車場にいて……、ああいう若い女性と出会う機会なんてあったのでしょうか……。ひとまず、カメラ室からの連絡を待つ事にいたしましょう」


 「ところで奪衣婆様。あの軽自動車ですが……、本来、あの女性の物なのでしょうか?」


 「ん??……。あぁぁ……、そういう事ですね……」


 「はい……。あの女性が盗んだ車両……、という事も考えられませんか?」


 「キヨさん。その視点、いい線いってるかもしれませんよ。

 今、カメラ室に女性の洗い出しをお願いしているので、駐車場に女性が到着するまでの足取りも含めて、調べてもらいましょう」


 「そうですね。そうしてもらいましょう」


 「と……、すると……。駐車場とは別の場所で、車両の盗難事件が起こっているかもしれませんね」


 「ああ!!そうですね。それも調べてもらいましょう」


 「うん、そうですね。ではキヨさん。諸々をカメラ室に調べてもらって、我々は結果を待ちましょうか」


 「はい。承知いたしました。

 視聴者の皆様には、カメラ室からの調査結果が届き次第、ご報告いたします」

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