第12話 4月2日 実況と解説ー12
「なかなか動きのないまま、二日目の夜を迎えております。時刻は20時。現在の精鋭の場所を確認してまいりましょう。
加藤と酒井は依然、一緒に繁華街に潜伏……、うーん、あれは何でしょうね……。デートでしょうか……。
あっ、ちょっと待ってください。
今、カメラ室から情報が入りました。
はい……、はい……。
えぇ……。
あはは……、そうですか……。分かりました……。ありがとうございます。
……。
えぇ……、たった今、加藤と酒井の情報が入ってきました。
二人は、揃って、繁華街のラブホテルへ入ったようです。
これは、私の勝手な感情ですが、ちょっと笑ってしまいますね……。やはり、人間の行動というのは面白いですね。殺し合わなければならない二人でも、こういう展開になる事があるんですね。奪衣婆様、どう思われますか?」
「ふふ……。苦笑してしまいますね。なんだか、中継してしまいすみません、と謝りたくなってしまいます……。娯楽快楽を欲してしまうのも、人間の人間らしい可愛い部分なのかもしれません。
八咫烏カメラでは建物内には入る事ができないので、ホテル内の二人の様子を中継する事は難しいでしょうね……」
「そうですね。奪衣婆様のおっしゃる通り。二羽の八咫烏カメラは、ラブホテルの外で待ちぼうけをくらっているようです。ははっ。笑えますね。こういう場合……、中継するのも野暮ですよね……」
「そうですね……。ふふふ。ここは、苦笑をしながら、二人がホテルから出てくるのを待つしかないですね。朝になるかもしれませんけど……」
「カメラ室からの情報だと、二人は合流してから、お茶をして、ご飯を食べながらお酒を飲んで、それからラブホテルに入った、というので……、普通にデートしてたみたいですね」
「普通にデートですか……。なんだか、緊張感がないですね。肝が座っているのか、無頓着なのか? 本当に人間は不思議です。しかし、死ぬ前に誰かと肌を重ねたい、という感覚も、分からなくはないですけどね。お二人とも成熟した大人ですし……」
「どうせ、朝まで出てこないでしょうから。この二人は、今夜はノーマークでいいのかもしれません」
「うーん。カメラ室に無理を言えば、ホテル内の監視カメラをハッキングする事もできますが、どうしますか? やってみます?」
「奪衣婆様……、そんな事を言われたら野次馬根性が爆発してしまいますよ。ワクワクして、鼻息フンフンになります」
「あらあら、キヨさん。鼻息フンフンなんてはしたない……。でも……、見たいですよね……。気になるでしょう?どうしますか? キヨさんが見たい、と言えば、カメラ室に無理を言ってハッキングしてもらってもいいんですよ」
「奪衣婆様……。それは悪魔の囁きですね。うぅぅぅ、でも、それって……、普通に……、シンプルに”のぞき”ですよね?」
「ん??」
「ん??……、じゃなくて……」
「ん??」
「だから……、ん??……、じゃなくて……」
「ん????」
「あぁぁぁ!!もう!!奪衣婆様!!私もこういうシチュエーションの場合、覗きたいですよ!!興味ありますもん!!そりゃ〜、ことの顛末を一から百まで覗きに覗いて世間に吹聴して回りたいです!!でも……、”のぞき”ってちょっと悪趣味じゃないですかぁ。実際にコトを目の当たりにすると引く可能性もあるじゃないですかぁ。本人達がポルノも真っ青なコトをしていたら、それはそれで引きますよねぇ……。知らない方が面白くなる、という事もあるじゃないですかぁ。う〜ん……。だから私は……、ハッキングはご遠慮した方がいいんじゃないかなぁ、とも思うんですよねぇ」
「あらあら、キヨさん。それでいいんですか? 今、見ないとみられなくなりますよ。後悔しませんか? この大会を映像で見ている皆様のお気持ちをお察ししなくてよろしいの?」
「うぅぅぅぅ……。はい!!それでいいです!!悩みますが、観客の皆様のお気持ちを考えると心苦しい部分もありますが、それでいいです!!」
「あらあら、それじゃ、一旦、加藤と酒井の件は暖かく見守る、という事にいたしましょうか」
「はい!!加藤と酒井の件は事が動いてからのお楽しみにしましょう!!
では、迷いを吹っ切るために強引に実況を進めて参ります!!
他の精鋭の現在の状況を見て参りましょう。
住宅地にいた田之上ですが、現在は商店街の方へ移動したようです。
相川は、小学校の方へ移動しています。
オフィス街にいた井上ですが、住宅街に移動しています。
渡辺は、依然、工場地帯奥の駐車場にいるようです。
清川が、なかなか見つかりませんね。目撃情報も出てきておりません。なぜ、清川の情報がこんなにも出てこないのでしょうか。奪衣婆様……、実はもう、脱落している……、という事はないですよね?」
「うーん。まぁ……、それは無いと思いますよ。もし既に脱落していたとしたら、空の数字のカウントが減っていると思いますしね……」
「確かに!!そうですよね。空の数字は減っていません……、という事は、まだ、清川はどこかで生存している、という事ですね奪衣婆様!!」
「そうですね……」
「なんですか? 奪衣婆様。歯切れ悪いですね……。何か気になる事でもあるんですか?」
「うーん。そうですね……、清川の消え方がちょっとね……、気になると言えば、気になりますよね……」
「それは、どういう風に気になるんですか?」
「確信がまだ持てないのですよ。なので、私が感じているモヤモヤしたものの正体が分かった時にお話ししたいと思います」
「そうですか……。なんだかよく分かりませんが、分かりました。
奪衣婆様の憂が晴れた時には、お聞かせください」
「かしこまりました」
「では、実況に戻りまして……。
ここで、清川が消えてからこれまでの状況を整理してみたいと思います。
4月1日午後16時頃、警察署のロビーにいた清川が突如消えます。
それから、八咫烏カメラ、不死鳥カメラで捜索をしていますが見つかりません。
警察署ロビーで清川に接触したのは4人。
一人目は、清川に職務質問をしていたであろう男性警察官。
二人目は、清川にお茶を出していた女性警察官。
三人目は、視覚障碍者の若い男性。
四人目は……、こちらは接触したかは分かりませんが、清川の居た位置にいつの間にか入れ替わっていた清川と同年代の少女。
この4人です。
この4名、清川失踪に何か関係しているのかもしれませんが、全く関係ない人たちである可能性もあります。
依然として清川が見つからない今、謎は深まるばかりです。
清川の目撃情報も上がってきておりませんし、生きてはいると思いますが気になるところです。
引き続き、八咫烏カメラ、不死鳥カメラを駆使して清川を捜索して参ります」
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