第11話 4月2日 実況と解説ー11

「現在、時刻は午後12時を回りました。

 13時になりますと、潜伏制限時間の24時間になります。

 午前中は、中学校にいた相川が商店街に移動した程度で、精鋭各者、特に目立った動きはなく、私、実況の出番はございませんでした。

 昨日から1箇所に潜伏し続けている精鋭もおりますので、何かしらの動きがあるかと思われます。

 現在、午前中に移動した相川は商店街のファミリーレストランにいるようです。

 河上の騒動から、何かしらの動きがあるかと予想しましたが、なかなか、今回の精鋭は用心深いのか、動きがありませんね。奪衣婆様、どう思われますか?」


 「そうですね。前回大会が初日から波乱で大荒れだったと記憶しておりますので、今回も期待をしてしまいますが、前回大会と大半のメンバーが違いますし、今回は、ゆっくりと物事が進んでいくような印象ですね。しかし……、やはり、相川は中学校の始業時間になると潜伏場所を移動しましたね。住人を巻き込んでしまっては、生き残れませんからね」


 「そうですね。しかし……、今、相川が居るファミリーレストランも朝の段階では人もまばらでしたが、現在、お昼ご飯時という事もあり、店内も賑わっているようですよ。ここで事が起これば、犠牲者が出るのは、免れないでしょうね」


 「そうですね。しかし、危険を冒してでも人の多い場所にいるということは、大勢の中に紛れる事で、隠れているのかもしれませんね」


 「なるほど。確かに奪衣婆様のおっしゃる通り、周囲と同化してしまう事は、格好の隠れ蓑かもしれません」


 「それが仇となって、住人を巻き込まないといいですけどね……」


「……。しかし、奪衣婆様。なかなか、清川の情報が上がってきません。

 カメラ室と情報連携をしておりますが、今のところ、手掛かりはないようです」


 「今朝、カメラ室には捜索範囲の絞り込みをお願いしましたが、全く、情報はないですか?」


 「はい……。こちらに入ってきている情報では、今のところ、清川の足取りは不明です。清川は、一体、どこに行ってしまったのでしょうか。引き続き、捜索をしている状況です」


 「うーん。上手く幻夢の町に溶け込んでいるのか……、はたまた……、私たちの脳みそでは到底思いつかなような場所にいるのか?」


 「はい……、清川は一体、何処にいるのでしょうか……。情報が入り次第、お伝えして参ります。

 ……。

 えぇ……。では、各精鋭の現在のポジションを見てまいりましょう。

 先ほども申し上げました通り、相川は、商店街のファミリーレストランの中にいます。

 井上は繁華街の外れを歩いています。

 渡辺は工場地帯奥の駐車場に停まっているは放置車両の中にいるようです。鍵をこじ開けたんですかね……。

 田之上は工場地帯の廃工場の中です。

 清川は依然、行方不明です。

 ……。

 ん??……。

 これは……、加藤と酒井が同じ所にいるようです。

 加藤と酒井が同じカフェの店内にいるようですよ。

 これはどこのカフェでしょうか……?

 ……。

 これは……。繁華街にあるカフェですね。

 八咫烏カメラさん、二人に寄れますか?

 ……。

 今、二羽の八咫烏カメラが加藤と酒井の姿を同時に捉えています。

 今、加藤と酒井が二人でいる映像をお届けしています。

 ……。

 こ……、これは……、何という事でしょう……。

 加藤と酒井が、一緒にお茶をしているようです。

 ……。

 これは、驚きました。加藤と酒井がお茶しています。酒井が加藤にしきりに笑いかけながら、何やら二人で楽しそうに話しています。

 奪衣婆様、これはどういう状況でしょうか?」


 「これは、まさかのツーショットですね。どういう流れで、二人でお茶を飲む事になったのでしょうか。

 何やら話し込んでいるようですが……。この二人の雰囲気からは、共闘はするかもしれませんね……。しかし、共闘したところで、最終的にはどちらかが、どちらかを殺さなくてはなりません。力の弱い女である酒井が、男である加藤を利用して最後に殺す、なんて事も考えられますし、逆もありますね。加藤が酒井を利用するパターンも考えられます。これは、面白くなりそうなシチュエーションですね。もし、ここに知らず知らずのうちに精鋭の誰かが出会したとしたら、共闘して殺してしまうかもしれませんよ」

 

 「そうですね。面白くなってきました。

 二人でお茶しながら、何を話しているのでしょう?

 一見したところ、デートを楽しむ二人に見えます。

 八咫烏カメラさん!!二人の声は拾えますか?

 ……。

 ……。

 残念ながら、二人の音声は入ってきませんね。

 流石の八咫烏カメラも店内の音声まで拾えないようです。

 気になりますね。二人で何を話しているのでしょう。

 ……。

 ……。

 あっ……。はい……。はい、お願いします……。

 加藤と酒井が気になる最中ですが、田之上に動きがあったようです。

 ゲーム開始から、工場地帯の……、おそらく廃工場と思われる建物の中に潜伏し、動きのなかった田之上が移動をしているようです。

 映像が田之上に切り替わります。

 ……。

 ……。

 映像が切り替わりました。

 田之上は……、公民館方面に向かっていますね。

 今、公民館方面は、精鋭は一人もおらず、安全地帯となっています。

 精鋭が誰もいないエリアに移動していますので、しばらくは、目立った動きはなさそうです」


 「田之上は、昨日から同じ場所にずっと潜伏していましたからね。食事をした様子もありませんし、そろそろ、食事やトイレ、就寝場所もきちんと確保したい、と考えているかもしれません」

 

 「そうですね……。では、各精鋭の”昨夜”の潜伏状況をまとめてみたいと思います。

 酒井は、繁華街のネットカフェ内で一夜を過ごしたようです。夜は気温が下がり、かなり寒かったですから賢い選択でしたね。

 次に井上は、河上自殺事件の最中にはオフィス街にいましたので、そのままオフィス街のビルとビルの間に座り込んで夜を明かしたようです。こちらは、寒かったでしょうね。

 次に、加藤ですが、公民館横の公園のベンチで一夜を明かしたようです。こちらも夜は冷え込んだに違いありません。

 相川は、中学校の体育館倉庫です。こちらは、倉庫の鍵をバールで壊して中に入りました。

 渡辺は、工場地帯奥の駐車場の放置車両の中です。こちらは……、カメラ室からの情報では、放置車両をこじ開けて中に入ったようです。

 田之上は……、あぁ…やっぱり。えぇ……、カメラ室からの情報では、田之上は工場地帯内の廃工場の中に潜伏していたようです。

 清川は、不明です……。

 こうして、まとめてみると、食事をしていない者もいるようですし、各者、しっかり睡眠を取れたのか疑問ですね。

 奪衣婆様のいう通り、人間らしい必要最低限の生活ができる潜伏先を探す者が現れるかもしれません。

 ……。

 ……。

 新しい情報が入りました。

 何やら、パトカー3台がサイレンを鳴らし中学校方面へ向かっているようです。

 中学校方面は、午前中に相川が潜伏していましたが、現在は誰もいないはずです」

 

 「住民トラブルでしょうか? 何か事件があったのかもしれませんね」


 「幻夢の町の住民は、善良な者しかおりませんが、時々、住民同士の意見の食い違いなどから小さな諍いが起こる事があります。

 不死鳥カメラさん、パトカーを追ってもらえますか?

 なぜ、パトカーが出動する事態になったのでしょうか。

 ……。

 ……。

 はい。今、不死鳥カメラの映像が届きました。

 これは……、中学校の体育館倉庫ですね。

 ……。

 あぁぁぁ、なるほど。これは、体育館倉庫の鍵ですね。

 昨夜、相川が壊した鍵が本日午後になって発見されたようです。誰かが発見して通報したのでしょう。警察が調べにきたようです」


 「なるほど。相川が壊した鍵ですか。

 確かに、幻夢の町の住人達は現世の人間と同じように生活していますからね。

 中学校の体育館倉庫の鍵が壊されていたら、確かに事件になりますね」

 

 「はい。奪衣婆様のおっしゃる通り。

 幻夢の町は、現世の理と同じ仕組みで住人が生活し、文化を築いています。

 平和な町に突如訪れた、中学校体育館倉庫の鍵を誰かがぶっ壊した事件!!これは、事件にならずして何とする、ですね。

 このように精鋭が犯罪を犯せば事件になり、場合によっては指名手配をかけられてしまう事もあります。各精鋭、用心が必要です」

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