第14話 4月2日 実況と解説ー14

 「さぁ!!引き続き、映像は渡辺を追っております。依然、渡辺の乗る軽自動車は時速70キロから80キロを行ったり来たりしながら爆走中です。まもなく商店街に差し掛かります。

 ……。

 ……。

 うーん……。少しスピードが落ちてきましたでしょうか?

 えぇ……、さすがに住人の多く行き交うエリアに差し掛かった事でスピードが落ちてきたようです。しかし、八咫烏カメラのスピードメーターの表示は65キロとありますので、人が多いエリアを走るにはスピードが出ています。

 あぁぁぁ、このスピードのまま、商店街に突入しましたね。

 ああぁぁ、危ない!!

 今、一瞬、女性が轢かれそうになりましたが、うまく交わしたようです。

 現在、時速65キロのスピードで渡辺の運転する軽自動車は走行しています。

 ……。

 ……。

 他の車両が危険を察知したのか、次々と道路脇に車を寄せ始めました。

 渡辺の車は、一気に商店街を突き抜けていきそうですね。

 一体、どこに行こうとしているのでしょうか?

 商店街を突き抜けると小学校や中学校のエリアになります。

 渡辺は錯乱しているのでしょうか。車を止める気配がありませんね。どう思いますか? 奪衣婆様」


 「そうですね。スピードメーターもまた70キロに上がりましたね。周囲は人も走行車両も多いですから、大変危険な状態です」


 「ああぁぁぁ。渡辺の車が、前方を走っていた車両を擦り、1メートルほど跳ね飛ばしました。跳ね飛ばされた車両は大丈夫でしょうか!?

 繰り返しお伝えいたしますが、住人を巻き込み死亡させた場合、即失格となります。

 渡辺は、跳ね飛ばした車両には見向きもせず、中学校方面へ爆走中です。

 ……。

 ……。

 あの……。もしかしてこれって……。場外に出ようとしていますか?

 もしかしたら、渡辺。場外に出るつもりでしょうか?」


 「場外に出てしまえば、即失格ですよ……。ルールは最初に説明したはずなので、渡辺も分かっていると思いますが?」


 「しかし、このまま、中学校を突っ切ってしまったら、間違いなく場外に出てしまいます……。まぁ、場外に出る前に、格子状に貼られたレーザーバリケードでスライスされてしまいますけどね……。

 渡辺、サイコロステーキにでもなるつもりでしょうか?」


 「もしかすると、極度の緊張や興奮などでルールを忘れてしまっているのかもしれませんね。ただただ、遠くに逃げたい一心、なのかもしれません」


 「なるほど……。そうなると……、おっちょこちょいで失格……、になるかもしれませんね……」


 「うーん……。そうですね……。おっちょこちょいで失格となったら……。ちょっと笑えますね……。ふふふ……。車内の渡辺の様子が分かればいいですが、八咫烏カメラに近寄ってもらえると助かります。キヨさん、カメラ室に連絡して八咫烏カメラを渡辺に寄せてもらえますか?」


 「承知しました。カメラ室に連絡します」


 「まぁ……、渡辺が錯乱中であれば、ルールを忘れて突っ走ってしまう、という行動も納得がいきますが、もしこれが、冷静な判断の元に行われている行動なら、渡辺の目的や今後の展開が面白くなりそうな予感ですね」


 「確かに。これは冷静に判断された行動なら面白くなるかもしれませんが、先ほどの商店街で女性を跳ねかけたり、住人車両との接触事故を見るからに、冷静ではないように思われます。やはり、奪衣婆様のおっしゃる通り、錯乱しているのではないでしょうか?」


 「そうですね。錯乱してる……、というのが状況的には濃厚ですね。錯乱した理由が何なのか気になるところです」


 「やはり、あの女性でしょうか?」


 「渡辺を手引きしたと思われる女性ですね」

 

 「そうです。あの女性が関係しているような気がしますが……」


 「そうですね……。まだ、あの女性の情報は上がってきていないのでしょう?」


 「はい。まだ、カメラ室からの連絡はありません。情報収集中です」


 「うん……。情報が集まらないと何ともお伝えできませんね……」


 「そうですね……。映像は引き続き、渡辺を追ってまいります」

 

 「……。……。……。……」

 

 「……。……。……。……」


 「奪衣婆様……、渡辺の車の動き……、なんだかおかしくありませんか?」


 「そうですね……。おかしいですね……」


 「中学校方面に爆走していましたが、急に進路を変えました。高等学校方面に走り始めました」


 「そうですね……。しかし……、その高等学校も通り過ぎそうですよ……」


 「そうですね……」


 「……。……。……。……」

 

 「……。……。……。……」


 「奪衣婆様……、その高等学校も通り過ぎて、森に入りましたね……」


 「そうですね……」


 「奪衣婆様……?、これって、もしかして……」


 「もしかして?」


 「もしかすると、もしかして……」


 「うん……」


 「渡辺……、時間潰してます?」


 「かもしれませんね……」


 「今、渡辺の車は森に入り、神社の鳥居前を抜けて、工場地帯の方へ向かってます。工場地帯に戻るのでしょうか……? まさか、ドライブしただけ?」


 「まさか、キヨさん。そんなはずないでしょう……。何かあるのではありませんか?」


 「何かって、何がですか?」


 「分かりませんけど……」


 「そうこう言っているうちに、渡辺の車は工場地帯に戻ってきましたよ」


 「しかし、止まる気配はないようですね……」


 「そうですね……、工場地帯を通りすぎ、また、公民館方面へ移動しています」

 

 「渡辺……、何がしたいんでしょうね」


 「奪衣婆様……。やっぱり、時間潰しか時間稼ぎか、何かを待っているように見えますが……?」


 「何かを待ってる? 何を?」


 「いや……、それは分かりませんけど……」


 「……。……。……。……」

 

 「……。……。……。……」


 「でも、やっぱり奪衣婆様!!渡辺は何かを待ってるんじゃないでしょうか……? あっ、渡辺の車が停車しました。住宅街で停車しましたね。どうして、こんな場所で止まったのでしょうか?」


 「八咫烏カメラに近くに寄ってもらい、渡辺の様子を確認してみましょう」


 「はい。そうしましょう」


 「……。……。……。……」

 

 「……。……。……。……。

 はい。八咫烏カメラの映像が届きました。巨大三面照魔鏡には、渡辺の姿が映し出されています。奪衣婆様……、これは……、何をしてますか?」


 「パン食べてますね……」


 「パン……」


 「焼きそばパン……、美味しそうに食べてます……」


 「そうですね……、美味しそうですね……」


 「食料はどこで調達したのでしょうか?」


 「あっ……、そうですね。奪衣婆様のおっしゃる通り。食料を調達する場面なんてありましたか?」


 「牛乳……、飲んでますね……」


 「はい……、牛乳飲んでます……」


 「キヨさん……、やっぱり、あの若い女性と関連しているかもしれませんね。渡辺には、食料を調達する時間なんてなかったはずです」


 「そうですよね。工場地帯奥の駐車場から盗難車両で逃走して、車を止める事なく幻夢の町を一周しています。食料は最初から車の中にあった、と考えるべきです」


 「そうですね。私も同意見です。やはり、あの女性、渡辺を手引きしたようですね」


 「奪衣婆様……、渡辺を手引きして、メリットのある人物なんているんですか?」


 「キヨさんの言うメリットと言うのは、渡辺に手を貸して助ける事で得をする人物という意味ですよね?」


 「そうです。このゲームは最後の一人になるまで思う存分、殺し合いを楽しむスローターゲームですよ。渡辺を殺す事を考えて得をする人物はいても、渡辺を助けて得をする人物なんているのでしょうか?」


 「キヨさん……。もしかしたら、その逆なのではないですか?」


 「逆?」


 「そう……、渡辺を殺る気でいる人物がいるんじゃないですか?」


 「ん??」


 「渡辺を助けると見せかけて、殺ろうとしている人物がいるのではありませんか?」


 「あぁ……。あぁぁぁ……。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!奪衣婆様!!」


 「そうですよ。キヨさん!!渡辺、既に誰かにロックオンされて棺桶にもう、首から下は入っている状態なのではありませんか?」


 「奪衣婆様……。それが本当なら、渡辺をロックオンしている人物は、蜘蛛の糸のように色々な仕掛けをこの幻夢の町に張り巡らせている、って事ですか?」


 「そうかもしれません……。なぜなら……、私がその人物なら、ロックオンしているのは、渡辺だけではない、と思いますから」


 「確かに、謎の人物が張り巡らせた巧妙な蜘蛛の糸に、渡辺以外の精鋭も既に引っかかっているかもしれないわけですね」


 「そうかもしれません……」


 「なんだか……。なんだか……。なんだか!!急に面白くなてきましたね!!奪衣婆様!!!」


 「そうですね。面白くなってきましたね……。ひとまず、渡辺を手引きした女性の洗い出しを急いでもらいましょう」


 「そうですね!!奪衣婆様!!私、今、心臓がドキドキしています。巧妙に仕掛けられた蜘蛛の糸を最後は誰が手繰り寄せるのか!?

 はたまた、その蜘蛛の糸を掻い潜って、新たな展開を披露する人物がいるのか!?

 わぁぁぁぁ〜!!楽しみです!!」

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