第5話 4月1日 実況と解説ー5

 「さぁ、18時なりました。初日の太陽が落ちてまいりました。

 本日13時からのスタートでしたが、各自、動く事に抵抗があるのか、スタート地点を離れていない者もいるようで、なかなか動きがありません。

 清川が行方不明になった事で、状況確認のため離席した奪衣婆様もまだ、戻っておりません。引き続き、私、キヨ、一人で進行させていただきます。

 ……。

 ……。

 えぇ……、では、現在の各精鋭の位置を確認してまいりましょう。

 河上は相変わらずオフィス街ですが、オフィスビル内のエントランスに侵入したようです。昼間は小春日和だったとはいえ、夜になると少し冷えるでしょうからね。室内にいるのは賢明かもしれません。

 相川はどうでしょうか。

 相川は今、商店街にいるようです。ホームセンター内にいるようですね。

 渡辺は森の神社から動いていません。

 加藤は……、おおっ!!相川と同じ商店街のホームセンターにいるようです。相川と加藤。近くにいますね。これは、面白い展開を期待してしまいます。一旦、これは……、後ほど、実況します。

 酒井は繁華街に移動したようです。繁華街を歩いています。宛もなく歩いている……、というような雰囲気です。酒井は雰囲気的にどこか儚さを感じさせる女性ですね。色素薄めの美人といった感じで、夜の薄暗さが似合う雰囲気を持った女性です。

 井上はどうでしょうか?

 井上はオフィス街を歩いていますね。河上と近そうですが、河上がビル内に入っていますので、遭遇するような期待は出来なさそうです。

 田之上は相変わらず、工場地帯の建物の中にいます。これは、廃工場でしょうか。田之上、潜伏するには丁度いい、人気のない廃工場の中にいるようです。

 ……。

 さて!!!私は、個人的に相川と加藤が近い事に興奮を覚えますが、皆様はいかがでしょうか。

 当初、井上が小学校の近く、相川が中学校の近くに居り、二人の距離が近かったので、一発目のバトルを期待しましたが、上手い具合に互いに逸れたようですからね。つまらない事に何も起こりませんでした。

 今回はどうでしょう?

 相川と加藤、二人の様子を見てまいりましょう。

 ……。

 相川は、ホームセンターのキッチン用品売り場にいるようです。包丁を物色しているようです。武器の確保でしょうか。

 精鋭たちの最終目的は殺し合いの末に生き残る事ですから、どこかのタイミングで相手を殺害するための武器を確保する必要があります。

 殺し方にも色々ありますからね。撲殺、絞殺、刺殺、毒殺、射殺…。

 殺傷能力の高い武器を持っている者がより有利でしょう。

 幻夢の町は善良な住人しかいない、至って平和な町です。このような平和な町で調達できる武器となると、限りがあるのではないでしょうか。

 各精鋭が、どのような武器をどのようなルートで調達するのかもこのゲームの醍醐味の一つです。

 キッチン用品売り場を物色中の相川ですが、加藤はどうでしょうか。

 加藤は今、どこにいますか……。

 あっ……、加藤がいましたね。

 八咫烏カメラが加藤の姿を捉えています。

 八咫烏カメラは精鋭を追ってどこにでも潜入します。幻夢の町の住人には、ただのカラスにしか見えていません。

 ただ、ホームセンター内にカラスが侵入したら、排除されるのではないか、という懸念もありますが……、それは、一旦、置いておきましょう。

 さて……、加藤ですが……。

 これは……、花火のコーナーですね。

 この季節に花火を売ってるんですね。さすが、大型ホームセンターです。

 季節外れなので、花火のコーナーはそう大きくありませんが、花火を手に取って何やら裏のタグに書かれている文字をチェックしています。

 花火を何に使うのでしょうか。

 花火と言えば火薬です。

 火薬を使って何か武器を作り出す気かもしれませんね」


 「火薬といえば、銃ではありませんか?」


 「あっ!!奪衣婆様、お帰りなさい。たった今、離席していた解説の奪衣婆様がお戻りになりました」


 「加藤は現世にいた時に自作の改造銃で乱射事件を起こしているでしょう?今回も銃を作ろうと思っているのではありませんか?」


 「なるほど。確かに加藤は生前、改造銃を乱射して多数の死傷者を出した大罪人ですもんね。改造銃……、ありえますね。

 ……。

 ところで、奪衣婆様。

 清川の件は確認できたのですか?」


 「清川でしょう……。確認できました。

 私たちが清川の映像を確認している時、清川がトイレか何かでロビーのベンチを離れた時があったでしょう?」


 「ありましたね。本日16時頃の事でしょう?いない、と思ったら、程なくして戻ってきた時ですね」


 「そうです。あの時にね……。どうも、容姿の似た少女と入れ替わったみたいなんですよ」


 「あぁぁ……、あの時ですか……。全く、気づきませんでしたね……」

 

 「そうなんですよね……、全く気づきませんでしたね……。私とした事が……」


 「で、今は、清川を捜索をしているんですか?」


 「そうですね。モニター室と八咫烏カメラと不死鳥カメラを使って捜索しています」


 「あの……、こんなことを言うのも何ですが……。もう、誰かに殺されている……、とかはないですよね?」


 「……。あの子に限って、それはないと思いますけどね……。何かと運のいい子ですから……」


 「そうですよね。まさか、そんな事は……、ね……」


 「まっ、引き続き、清川は捜索します。進捗があったら逐一ご報告しますよ」


 「はい。承知いたしました。進捗があったらお願いします。

 では、引き続き、現在、商店街のホームセンター内で相川と加藤がニアミスしている状況をお伝えいたします。

 いかがですか、奪衣婆様。いきなり、今大会の本命二人がニアミスしてますよ」


 「そうですね。確かに加藤と相川は現世で起こした事件が衝撃的すぎますし、二人とも計画的に物事を進めるタイプのようなので、今大会の優勝候補と言っても過言ではありませんね」

 

 「はい。加藤は生前、両親を殺した後に街中で銃乱射事件を起こしていますし、相川は自分の母親を計画的に時間をかけて毒殺するという事件を起こしています。双方、甲乙つけ難い悪党です。今大会でこの二人がぶつかる事は、一大イベントと言っても過言ではありません」


 「しかし、キヨさん。この二人は、計画性を持って行動するタイプの人格を持っています。今現在、何の準備も出来上がっていないのに、相手に遭遇しただけで襲いかかってしまうような事をするでしょうか?私だったら、相手の位置情報だけをある程度確認して、準備を整えてから、実行に移すと思います」


 「確かにそうですね。遭遇した程度では、何も起こらない可能性がある二人ですね。互いに突発的に掴み合いになるようなタイプでもなさそうですし……。やはり、準備をしっかり整えてからになるでしょうか」


 「互いに気づいていても、気づいていないフリをしそうなのもこのタイプですね」


 「あぁ……、なんだかわかる気がします。キツネとタヌキですね。あ……、キツネは他にも居そうですけどね……」


 「……。」


 「あっ……。奪衣婆様!!相川が買い物を終えてホームセンターを出ます。加藤はどうでしょうか……。

 加藤は、今、鉄パイプのコーナーにいますね。短めの鉄パイプを手に取って眺めています。

 これは……。この二人は、ニアミスしただけで何も起こらなさそうですね……。

 何だか残念です……」


 「うふふ(微笑)。まぁ、こういう時もありますよ。何も起こらないものは仕方ないですね」


 「はぁ……、なんだか期待損です……。

 あら……??

 相川が誰かと接触して転んでいますね。ぶつかったのでしょうか?

 ホームセンターの出口のところで誰かにぶつかったようです。

 町の住人でしょうね。男性です。

 転んだ相川に声をかけています。

 ……。

 わぁ〜♪ 奪衣婆様!!ちょっと見てください!!

 この人、凄いイケメンですよ。年齢は少しイってそうですね。ナイスミドルってところでしょうか。30歳は超えているようには見えますが、めっちゃカッコイイです。

 わっ!!相川!!抱き抱えられて、立たせてもらっていますよ!!なんて、素敵なんでしょう。

 相川もイケメンの顔を見て、ポーッとしていますね。

 これは、漫画のような出会いじゃありませんか、奪衣婆様!!」


 「本当……、この子は節操がないわね……」


 「いやん♪このイケメンと相川の間に何かロマンスでも生まれれば、それはそれで私好みの展開です♪」


 「キヨさん……、頭の中が御花畑になっていますよ。少女漫画の読み過ぎではありませんか……」


 「だってぇ〜、少女漫画の展開ってドキドキするじゃないですか。有り得ない!!と思っていても、想像しただけでもドキドキしますよぉ〜。それが実際に起こるんですよ〜。鼻からピンクの鼻血出ちゃいますよぉ〜」


 「ピンクの鼻血……。ま、好きなだけ出してもらっていいですけど……。

 キヨさん……、そういうところは16歳の少女なんですね……」


 「はい♪ 少女漫画大好きなピチピチ16歳です♪」


 「……。

 あ……、加藤もホームセンターを出るみたいですよ。

 キヨさん、実況に戻ってください」


 「あぁぁ……、はい。大変、失礼いたしました。実況に戻らせていただきます。

 結局、相川が先にホームセンターを出て、少女漫画シチュエーションを堪能している間に加藤も店を出たようですが、この二人……、互いの存在に気づいていますか?どう思われます?奪衣婆様」


 「雰囲気的に……、互いの存在には気付いていなさそうですね……」


 「そうですね……。見た感じでは、気付いていないように見えます。今回は、バトル無しのようです……」

 

 「そうですね。互いに気づいている風でもありませんし、殺害準備も整っていませんからね。もし、気づいていたとしても、見過ごしている可能性も高いですね」


 「なんだぁ……、がっかりです」


 「うふふ。キヨさん、ほっぺたをふぐのように膨らまして、可愛いですね。その柔肌に五寸釘をブッ刺してあげたいくらい愛らしいです。今回は残念ですが、次の展開を期待しましょう」

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