第4話 4月1日 実況と解説ー4

 「現在の時刻は16時です。

 各精鋭、特に目立った動きもなく時間だけが過ぎようとしています。

 特に動きはありませんが、精鋭の今の状況を確認してまいりましょう。

 河上、相変わらず最初に降り立った場所を動いていません。オフィス街にいます。

 相川は中学校の体育館倉庫の近くに座り込んでいますね。

 渡辺が森の中の神社を見つけたようで、神社に移動をしています。

 加藤は住宅街から公民館方面に移動し、公民館横の公園のベンチに座っています。

 酒井は依然、高校のグラウンドにいます。

 井上も小学校から移動していませんね。

 田之上も同じく移動しておらず、工場地帯にいます。

 清川も依然、警察署内にいます。

 少し前に清川が数分姿を消しまして、動きがあったか!!と思いましたが、程なくして戻ってきました。お手洗いに立っただけでしょうね。

 清川はまた、警察署内の玄関ロビーのベンチに座って足をブラブラさせながら、退屈そうに時間を潰しています。しかし、今回の精鋭たちは、なかなか動きませんね。奪衣婆様、どう思われますか?」


 「そうですね。前回大会が、初日から大荒れでしたので、かなり印象的な大会になりましたけど。毎回、初日から大荒れになるとは限りませんし、最初は様子見をして、徐々に慣れてきて大胆になっていくというのが、人間の基本習性でしょうから。最初はこんなもんかもしれませんね」


 「確かに特殊な状況ですしね。すぐに順応するなんて、なかなか無いでしょうね。慣れるまでに時間がかかるのも頷けます」


 「制限時間は一週間ですから。時間はまだ、たっぷりあります。各精鋭を見守ってまいりましょう」


 「しかし、奪衣婆様。最初に仕掛けるとしたら誰だと思いますか?」

 

 「そうですね。やはり、無差別殺人の経験のある加藤あたりじゃないでしょうか?加藤の動きは、一見、計画性がなさそうで、実は綿密に計画を立ててあるような動きをしますから。今、まさに計画を立てている最中なのかもしれませんね」


 「なるほど。今、現在、公民館横の公園のベンチに座って鼻をほじりながら暇そうに時間を潰しているように見えても、加藤の頭の中では、殺人計画が着々と進んでいるかもしれませんね。そう考えるとワクワクします♪」


 「殺人計画を企ている人間を想像してワクワクするなんて、キヨさんも正気ではありませんね。ふふふ。」


 「奪衣婆様。私は楽しみなのですよ。人間が人である所以を露にし、他人を蹴落としていく様を見るのが」


 「キヨさんも好きですね……。ま、私も嫌いはないですけどね。ふふふ。」


 「はい!!では……。

 え??……。はい。はい……。はい……。分かりました……。

 えぇ……。ここで各精鋭の状況チェックをしているモニター室のスタッフから衝撃的なニュースが届きました。

 キョンチャルソに潜伏していた清川ですが、現在、行方が分からなくなっているようです」


 「キヨさん、落ち着いてください。警察署が韓国語になっていますよ……」


 「大変失礼いたしました……。つい、韓国語が出てしまいました」


 「キヨさん。韓流大好きですもんね」


 「いや〜、そうなんですよ。韓流ドラマ大好きで、最近では、韓国語の勉強をしちゃってるんです♪ものすごく面白いですよ。おすすめです♪。だけど、連音化が難しくて、そこで躓いてるんですよね……。って、そんな事よりも奪衣婆様!!清川がいないんですよ。行方不明です!!」


 「うふふ。キヨさんは面白いですね(微笑)。

 ……。

 うーん。清川がいなくなりましたか。先ほどまで、警察署の玄関ロビーのベンチに座っていたようですが……。

 今、警察署内の玄関ロビーの映像が八咫烏カメラを通じて映し出されていますが、清川はいるようですが、アレは違うのですか?」


 「はい。今、画面中央に写っている少女ですが、一見、清川のように見えて、実は全く違う人物のようです」


 「と……、言うことは……。入れ替わった……、という事でしょうか?」


 「それは……、詳しい情報が無いので分からないのですが、実際にあの少女は清川ではなく、全くの別人との情報です。実際に、もっとカメラを少女に寄せてみましょう。カメラで少女を拡大してください」


 「あ……、本当ですね。清川ではありませんね。雰囲気は似ていますが、全くの別人ですね。

 キヨさん……。私たちは、いつから彼女を清川だと思い込んで、見過ごしていたのでしょうか?」


 「わかりません……。今、モニター室のスタッフが過去の映像をチェックして、清川と少女が入れ替わった瞬間を探しております。見つけ次第、こちらに連絡をいただく予定です」


 「しかし……、入れ替わったとしたら、見事なまでに鮮やかですね。全く気がつきませんでした……」


 「少女に話を聞く事ができたらいいのですが、どうしますか?奪衣婆様」


 「そうですね……。モニター室からの情報を待つ事にしましょう。基本的には、幻夢の町の住人には手出しをしない決まりを私自身が作っています。そこは、十分に守っていきたいと思います。

 いよいよ以って、分らない時はその時にまた、考えましょう。

 私は、主催者でもありますから、情報確認のためにモニター室に行ってきます。

 何か分かり次第、戻ります。キヨさん、実況はお任せしましたよ」


 「はい。承知いたしました。

 では、これより奪衣婆様がお戻りになる時間まで、私、キヨが実況のみでお届けいたします」

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