第7話 4月1日 実況と解説ー7

 「バトル開始から7時間が経過いたしました。時刻は20時を回っております。

 観客の皆様にご案内です。

 血の池コロシアム内パブリックビューイングは24時間開放してございます。パブリックビューイングをご利用中の皆様のためにヘルホテルが期間限定で一般オープンしております。客室のご予約は全室満室となっております。たくさんのご利用、誠にありがとうございます。なお、パブリックビューング内は夜通しご観戦いただいても構いませんが、会場内でのご飲食のご提供は22時までとなっておりますので、ご注意ください。22時以降のご飲食をご希望のお客様は、午前3時までオープンしているホテル最上階の "Cafe&Bar Hell's Kitchen" をご利用ください。ホテルの客室利用のお客様はお部屋に戻られましても、室内専用モニターでご観戦いただく事ができます。引き続き、実況は私、キヨ。解説は奪衣婆様でお送りいたします」

 

 「はい。引き続き解説を担当いたします。奪衣婆でございます。よろしくお願いいたします。

 さて、毎回、この大会の開催時期に期間限定で一般オープンとなるヘルホテル。少しだけ、このホテルのご案内をお願いできますか、キヨさん」


 「はい。では、地獄にある唯一のリゾートホテル”THE Heaven's Hell Hotel”、通称”ヘルホテル”をご紹介してゆきます。

 こちらのホテルは、地獄が運営しているホテルになります。

 重要イベントが開催される時期にしか一般オープンしておりません。

 普段は会員様向けのサービスのみのご提供で、会員様ではない一般のお客様にはご利用をご遠慮いただいているホテルです。

 重要イベント自体が、数十年に一度と滅多に開催されませんので、一般の方からしてみると、幻のホテルです。私、キヨもまだ、一度も泊まった事がないんですよ。是非、会員になって泊まってみたいものです」


 「キヨさん。会員になるためには徳の高さ・社会貢献度・奉納金の規定をクリアしていないとなりません。キヨさんの場合だと、もう少し頑張らないとならないでしょうね」


 「うーーーん。憧れのリゾートホテル会員生活は……、私には、夢のまた夢のようです……」


 「でも、後3000年ほど頑張れば、キヨさんも規定クリアするかもしれませんよ」


 「えぇぇ……、あと、3000年も頑張らないと私は会員になれないんですか……。それは……、死んじゃいそうです……」


 「もう、死んでますけどね。うふふ」


 「私はコツコツ自分のできる仕事をして、身の丈相応の生活をしたいと思います……。

 さて、こちらのヘルホテルは総客室数4000室のマンモスラグジュアリーリゾートホテルです。施設内には、ショッピングモール・カジノ・プール・フィットネスジム・レストラン・遊園地等々、皆様を飽きさせないサービスを多数ご用意しております。ホテルを一周するよう設置されている噴水のショーは必見です。噴水ビューのお部屋からは直接、噴水ショーをご覧いただく事ができます。ショーは午前10時、午後15時、午後18時、午後21時の計4回行われます。この機会に是非ご覧ください。圧巻です!!」


 「大会期間中だけは、一般の方も出入り可能ですから。パブリックビューイングでの観戦に飽きたらホテル内のサービスで楽しまれてもいいと思います。ねっ!キヨさん」


 「確かにホテル内のサービスだけでも十分に楽しめますよね。一般の方からしてみたら出入り出来るだけでも珍しいホテルですので、大会期間中は、思う存分、心ゆくまでお楽しみください!!

 ……。

 では、大会の実況・解説へ戻ってまいりましょう。

 ……。

 いまだ、清川は行方不明のままです。

 他の精鋭にも目立った動きはないようです。

 加藤と相川がホームセンターでニアミスしていたようですが、互いに存在に気付いていなかったのか、戦いを避けたのか、特に動きはありませんでした。

 さすがに初日からバトルを期待するのは、少し欲が過ぎましたでしょうか? どう思われますか奪衣婆様」


 「そうですね。本日、冒頭でも申し上げましたが、初日は動きが少ない事が多いです。しかし、清川が依然、見つかっておりませんし、移動している精鋭もいますから。今夜、何かしら事件のようなものがあってもおかしくないのではないか、と思います」


 「はい。私も何かしらの事件を期待してしまいます。

 では、各精鋭の現在地を見てまいりましょう。

 河上から参りましょうか。

 河上は……、相変わらず、オフィス街のビルの中にいるようです。

 現在、映し出されている映像は河上の様子です。

 こちらは……。オフィスビルのエントランスのようですね。

 この時間帯でも、エントランスが空いてるビルがあるんですね」


 「残業で残っている方がいらっしゃるのかもしれませんね」


 「なるほど、残業ですか!!残業中の皆様、お疲れ様でございます!!

 さて、今のところ、河上には動きはないようです。

 河上は、今日は動かないつもりかもしれませんね……。

 ……。

 次を見てまいりましょう。

 加藤が公民館横の公園へ移動しています。

 何やら買い物袋をたくさん抱えているようですが、何を買ったのでしょうか。

 ホームセンターでは、花火を物色しておりましたが、色々と買い揃えたようです。

 買い揃えたのは武器の類でしょうか。

 時間的に食料品なども買っているのではないか、と思われます。

 ……。

 では、次に相川を見てまいりましょう。

 相川は先ほどまで商店街のホームセンターにおりましたが、元居た中学校へ戻ったようです。

 こちらも、食料品等を買い揃えているようです。

 あ……、買い物した荷物の中から何かを取り出しています。

 これは……、何でしょうか……。

 これは……、バールでしょうか。

 ホームセンターで購入したと思われるバールを取り出しましたね。

 何をするのでしょうか。

 体育館倉庫の方へ向かっています……。

 ……。

 体育館倉庫前に来ましたね……。

 これは……、何をしているのでしょうか……。

 あぁぁ……、体育館倉庫の扉をバールで何やらやっています」


 「鍵でも壊しているのではないですか?」


 「そうですね……。カメラさんもっと寄れますか? 相川の手元の映像をお願いします。

 ……。

 あぁ……、体育館倉庫の観音扉に巻かれたチェーンについている南京錠をバールで叩くような素振りをしています。

 これは……、南京錠を壊しているようです。

 鍵を壊して中に入るつもりのようです。

 今日は、体育館倉庫に潜む事にしたのかもしれません。このまま、体育館倉庫に潜むようなら、今日はもう、動きはないかもしれません。奪衣婆様、どう思われますか?」


 「相川は大胆な事をしますね……」


 「そうですね。少々、乱暴な感じもしますが……」


 「人間性というのは、ふとした時に出てしまうもんですね……」


 「……。

 では、気を取り直しまして、次に酒井を見てまいりましょう。

 酒井は、先ほど、繁華街の方へ移動しておりましたが、そのまま繁華街にいるようです。

 あ……。井上も繁華街にいますね。

 酒井と井上の両者が現在、繁華街にいるようです。

 両者、近くにはいるようですが、両者とも別々に飲食店内に入っています。ご飯を食べているようです。

 互いの存在には気づいていないようですね。

 繁華街の居酒屋の営業時間が大体、23時頃までですので、お店の営業時間内では動きはないかもしれませんね……。

 ……。

 では、次を見てまいりましょう。

 次は、渡辺です。

 渡辺はどちらにいますでしょうか?

 渡辺は長く、森に潜伏しており神社に移動しておりましたが……。

 あっ……、いましたね。

 現在、工場地帯の奥の方へ移動しているようです。

 工場地帯は田之上が先に潜伏していました。

 田之上が全く動いておりませんので、このままだと渡辺とニアミスする可能性があります。

 動きがあるようでしたら、また、お伝えします。

 以上、各精鋭の現在の様子をお伝えいたしました。

 ……。

 動きがある精鋭同士は接近する場面もありますが、大きな動きがありません。このまま、何も起こらず夜が更けていくかもしれませんね。どう思いますか、奪衣婆様」


 「そうですね……。夜というのは、昼間と比べて人の神経や精神が開放される時間でもあります。しかし、夜に活動的な人間と昼間に活動的な人間と個人差があり、各々の性格や習性の差もありますから何とも言い難いですが、初日の緊張がほぐれて、何か事が起こってもおかしくありませんね……。事が起こる事を期待しつつも、各者の動きを見守るしかないのではないでしょうか」


 「はい。奪衣婆様のおっしゃる通り、見守ってまいりましょう。

 さて、本日は、綺麗な満月となっております。澄んだ空に輝くとても大きな月で美しいですね。クレーターが肉眼でもハッキリ見えています。

 昼間は小春日和でしたが、さすがにまだ4月です。夜は気温が下がってまいりました。

 現在の気温は12℃です。深夜に向けて、さらに気温も下がると思われます。

 精鋭各自、まだまだ凍て付くこの夜をどう乗り切るか、楽しみです。

 ……。

 では、ここで、カジノ内スローターゲームBettコーナーにてご購入いただきましたベッティングカードの集計が終了いたしました。

 順位を発表してまいります。

 8位 エントリーナンバー6番 井上沙耶香

 7位 エントリーナンバー5番 酒井若葉

 6位 エントリーナンバー1番 河上肇

 5位 エントリーナンバー7番 田之上マリア

 4位 エントリーナンバー3番 渡辺謙太郎

 3位 エントリーナンバー2番 相川明那

 2位 エントリーナンバー8番 清川葵

 1位 エントリーナンバー4番 加藤典明

 やはり、無差別殺人経験者の加藤は圧倒的に強いですね。奪衣婆様、どう思われますか?」


 「そうですね。1位が加藤なのは、現世での行いを見れば納得のいく順位です。しかし、意外にも17歳と若い清川が2位につけていますね。やはり、失踪した事が影響したのでしょうね」


 「失踪した大胆さが、観客の期待値を高めたのかもしれませんね」


 「得てして、いつの世もトリッキーな事をしそうな雰囲気の人間とは世間の期待が集まるものです」


 「確かに、トリッキーさを感じる人材って人間的な奇妙さや違和感からくる不安を感じますが、少なからず面白さも感じますもんね」


 「見た目と中身のギャップに差がある人を目の前にすると、嫌悪感と好奇心が同時に湧くのも人間の心理的傾向とも言えます。もちろん、その後、ギャップを極端に感じる人間と実際に交流するかどうかは、嫌悪感と好奇心、どっちが勝つかにもよりますけどね」


 「私は、ギャップ萌えしてしまって、惹かれてしまうタイプかもしれません」


 「うふふ。キヨさん若いですね。恋愛下手さんに多いタイプですね」


 「恋愛下手ですか……。どういう事ですか?」


 「恋愛下手さんの多くが、相手の見た目と中身のギャップの違いに魅力を感じ、お付き合いに発展する事が多いのですが、そもそも、私たち人間は、目に見えていない物よりも、目に見えている物から情報を得る事が多く、実際に目に見えている”見た目”で相手を判断し、当初興味を持った”内面”を忘れてしまう傾向にあります。なので、相手の見た目から得た情報を元に、自分勝手に”理想像”を創り上げてしまい、実際の相手とはかけ離れた理想像をその人だと思い込んでしまいます。そのため、相手が自分の理想通りの動きをしなければ〈この人違う!!〉と勝手に思い込んで、〈私の理想と違うじゃない!?何なのあなた!!〉と怒ってしまい、攻撃を開始してしまうのですよ。そうやって、関係悪化した恋人同士の多くは破局します」


 「わぁ……、なんだかソレ……、分かるような気がします。相手に魅力を感じて付き合ったのに、何故か、相手が”ダメな人”に見え始めて、結果、仲違いして別れてしまう、ってやつですよね……?」


 「そうです。目に見えている物の情報のみで減点方式を選択し、相手を査定してしまって悲しい結果を迎える、という典型的な恋愛下手さんのパターンです」


 「あぁぁ……、奪衣婆様……。なんだか私……、耳を通り越して心臓が痛い……」


 「キヨさん、耳を通り越してしまったのですね。おかわいそうに……。

 まぁ、世間知らずの若い方に多いパターンですよね。世間を知っていけば、見えない物を見る力の方が大事な事は、自ずと分かるようになりますから。最初は、積極的に失敗して経験を積んでいくのもいいと思いますよ」


 「でも、奪衣婆様……。恋愛って失敗したくないのが現実です……」


 「仕方ないですよね。恋愛は心対心の掴み合いですから。恋愛の失敗は自己責任ですよ。それだけ、人を見る目を互いに磨いて、人への接し方を互いに勉強しないといけませんね」


 「厳しいですね……」


 「恋愛自体、必ずしなければならないものでもありませんし。苦手な人はしなくてもいいのではないですか?」


 「それは……。なんだか、人生が寂しくなりそうですね……」


 「寂しくなりたくないのだったら、頑張らないとならないのではありませんか?」


 「奪衣婆様……、恋愛って頑張らないといけないものなんですか? 巷では、”恋愛は頑張らなくてもいい”って言葉もあるじゃないですか?」


 「キヨさん……、しっかりしてください。ご自身の人生を彩り豊かにするために取る方法に”楽”があると思いますか? 最初から楽はありませんよ。難しい事でも継続して習慣化していくから、以前よりも楽に感じるだけの話で、最初のうちから楽な事なんてありません。例えば、ピアノの練習でも、最初は上手くいかず失敗ばかりするでしょう? 練習するから上達して上手く出来るようになるのです。恋愛も同じです」


 「なるほど……、厳しいですね……。恋愛も努力が必要なんですね……」


 「当たり前です!! 恋愛を頑張りたい人は、頑張った結果がついてくるし。頑張らなかった人は、それなりの結果なのではありませんか」


 「はぁ……、なんだか、ため息の止まらない話になってきました……」


 「恋愛も頑張り方次第で招く結果は違いますからね……。良い方向に向くように頑張ると努力が実を結んで楽しく感じると思いますよ。

 まぁ、あまり暗くならずに、見えているものばかりを追う生活を切り替えたらいいだけの話なので、簡単な事ですよ」


 「はい……、見えない物に気を配れるように目線を切り替えたいと思います。

 では……、気持ちは沈んだままですが、精鋭たちに目立った動きがありませんので、私、実況のキヨと解説の奪衣婆様は、しばし休憩をいただきたいと思います。

 動きがありましたら、私、キヨが実況に戻らせていただきます。

 しばし、映像のみでお楽しみください。

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