目標まであと…

律の大会を見に行って、俺は改めて思った。

やっぱり律はモテるし、かわいいし、かっこいい。流れるような動きでハードルをすいすいと飛ぶ姿、俺にだけ自己ベストが出たと微笑む姿…どれもとても愛らしいものばかりだ。

記録会の出来事をぼーっと振り返りながら、俺はちらっと隣の席の彼女に目をやった。今の授業は歴史で、先生が詳しく解説しながら黒板に書く文字をノートにとる、という欠伸が出そうなつまらない授業。まあそれも、俺からすればの話だが。

隣の彼女は、群青の目をキラキラさせながら必死にノートを取っており、色ペンやイラストなどで分かりやすくさっさとまとめていく。この間読んでいた本もそうだったけど、どうやら彼女は歴史が好きみたいだ。もしかしたら、前世で幕末の志士として活躍してたから好きなのかもしれない。ある程度ノートを取りながら、俺はちょっとそう思った。

「何見てるの」

「っ…?!?!」

律にいきなり小声で声を掛けられ、俺は危うく大声を出すところだった。目を大きく見開きながら律の方を向くと、彼女は顔をちょっとしかめた。

「何その顔、変顔?」

「違うって、まじでびっくりした」

「あぁ、ごめん」

「別に怒ってないぜ」

俺がふふ、と笑うと、彼女はなぜか不貞腐れたような顔になった。心なしか、律の耳や頬がほんのり色づいているような気がする。多分幻覚だけど。

「すごい真面目にノート取ってるなと思って」

「歴史好きなの」

「やっぱりな、さっきから思ってた」

俺がノートに視線を向けながらそう言うと、彼女はちょっとだけ黙った。そして、ノートをとる手を動かしながら口を開く。

「颯、歴史苦手でしょ」

「え、なんで分かった?」

心底びっくりしながら、俺は彼女にそう問うた。前苦手って話したっけ、と記憶の引き出しをがちゃんこがちゃんこ開けていたら、律が目線だけちらりとこちらに向けた。涼し気な蒼色が、俺を見据えてきらりと煌めく。それだけで、俺は少しだけ胸が高鳴ったような気がした。

「こないだの小テスト、点悪かったじゃん」

「あー、あれか」

ふっと鼻で笑うように、律は俺に微笑みかける。自信満々なそのどや顔もかわいらしい。

「今度、家来る?勉強、教えてあげよっか」

「…まじで?」

「うん。いいよ」

「じゃ、じゃあ行こうかな」

めっちゃ嬉しい。というか最近律との距離がぐんと縮まってきてかなり嬉しい。いずれ家に行ったり来たりの仲になりたいな、とは思っていたけど、まさかこんなに早くなれるとは。

目標まで、あと数十センチくらいかな。

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